私たちは、タイ国の研究者と共同で、その亜熱帯環境の中から、系統的に類似する常温菌より10〜20度の高温でも生育可能な、予想外に多くの広範な「耐熱性」微生物を見いだすことに成功し、その中に「耐熱性」酢酸菌や「耐熱性」酵母などの発酵微生物も存在していることを見いだした。このことは、進化的に膨大な時間を隔てて存在する好熱菌や超好熱菌を支配していて、30〜60度も生育温度が異なる「高温性」原理とは異なり、進化的には比較的短時間に「適応として」常温菌から、10〜20度の生育温度が上昇した「耐熱性」が生まれることを意味しており、その意味で、比較的少数の因子からなる「耐熱性」原理が存在することが予測された。さらに、これらの耐熱性酢酸菌の生理学的解析をすすめ、その中から幾つかの実用可能な耐熱性菌を見いだしてきた。それらは、高温酢酸発酵、高温ソルボース ・エリスリロース発酵、さらに高温多糖ポリマー生産などである。
これらの研究から、私たちは、酵母や酢酸菌などの有用発酵微生物の中に「耐熱性」を有する一群が普遍的に存在すると考えるに至った。これらの発酵微生物に好熱性菌の存在は考えにくいため、より高温(+10〜20℃を想定)に適応したこれら耐熱性菌の分離もしくは遺伝子工学的開発が合理的であり、有用な「耐熱性」発酵微生物を開発することが可能であると考えた。
それ故、本学で組織する微生物研究推進体の他のメンバー(農学部・山田守、工学部・赤田倫治・星田尚司、医学部・白井睦訓・東 慶直)とチームを組んで、生研センター・プロジェクトとして、「耐熱性発酵微生物の「耐熱性」分子機構の解明と発酵産業への利用」を始めることとした。そこでは、1)常温菌である酵母・大腸菌の「熱耐性」機構の解析、2)さらに既に我々が分離している耐熱性を有する酵母や酢酸菌の耐熱性機構の解析や3)常温菌との比較ゲノム解析を通じて、「耐熱性」の分子機構を解明し、その成果を利用した高温発酵系の開発に取り組む。この取り組みは、「耐熱性」微生物の利用を可能とすることで、発酵生産の温度管理を容易にして、国内の醸造・発酵産業に大きく貢献することを可能にする。それにも増して大幅な冷却エネルギーの削減を可能にすることで「京都議定書」の遵守に発酵・醸造部門から貢献できるものと期待される。加えて、高温のため醸造産業の脆弱な東南アジアでの発酵産業の育成にも貢献できると期待される。
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D. Moonmangmee, O. Adachi, Y. Ano, E. Shinagawa, H. Toyama, G. Theeragool, N. Lotong, K. Matsushita. Isolation and characterization of thermotolerant Gluconobacter strains catalyzing oxidative fermentation at higher temperatures; Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2306-2315 (2000)
D. Moonmangmee, O. Adachi, E. Shinagawa, H. Toyama, G. Theeragool, N. Lotong, K. Matsushita. L-Erythrulose production by oxidative fermentation is calatalyzed by PQQ-containing membrane-bound dehydrogenase; Biosci. Biotechnol. Biochem., 66, 307-318 (2002)
S. Moonmangmee, H. Toyama, O. Adachi, G. Theeragool, N. Lotong, K. Matsushita: Purification and Characterization of a Novel Polysaccharide Involved in the Pellicle Produced by Thermotolerant Acetobacter Strain; Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 777-783 (2002)
H. Toyama, W. Soenphol, D. Moonmangmee1, O. Adachi, K. Matsushita. Molecular properties of membrane-bound FAD-containing D-sorbitol dehydrogenase from thermotolerant Gluconobacter frateurii isolated from Thailand. Biosci. Biotechnol. Biochem. 69, 1120-1129 (2005)
A. Deeraksa, S. Moonmangmee, H. Toyama, M. Yamada, O. Adachi, K. Matsushita: Characterization and spontaneous mutation of a novel gene, polE, involved in pellicle formation in Acetobacter tropicalis SKU1100. Microbiology 151, 4111-4120 (2005)
A. Deeraksa, S. Moonmangmee, H. Toyama, O. Adachi and K. Matsushita: Conversion of capsular polysaccharide, involved in pellicle formation, to extracellular polysaccharide by galE deletion in Acetobacter tropicalis. Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 2536-2539 (2006)
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