山口大学大学院医学系研究科

猫と安心して
暮らすための
診断キット開発

猫ひっかき病(Cat Scratch Disease)は年間約1万人が感染すると推定される人獣共通感染症です。本研究室は約30年にわたり血清検査を行ってきた国内主要施設として、迅速・簡便な検査キットの開発を目指しています。

約1万人 国内年間推定感染者数
約30年 本研究室の血清検査実績
60% 患者の約6割が15歳以下
蛍光顕微鏡でバルトネラ・ヘンセレを観察する研究者
Bartonella
henselae

猫ひっかき病とは

猫ひっかき病は、原因菌「バルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)」に感染した猫との接触によって人が発症する人獣共通感染症です。秋から冬にかけて増加傾向にあり、猫の爪によるひっかき傷のほか、猫の唾液・ノミの糞を介しても感染します。

感染した猫の多くは無症状のため、飼い主が気づかないまま感染源となっているケースが少なくありません。愛猫家が増える中、診断の遅れが患者の苦痛につながっています。

01

猫は無症状

感染猫の多くは元気で症状を示さない。細菌は猫の血液内に潜伏しており、飼い主が知らない間に感染が広がる可能性がある。

02

ひっかき傷だけではない感染経路

ノミの糞が混入した猫の唾液・爪を介して感染する。猫に舐められた手で目をこすっただけでも感染するリスクがある。

03

子どもに多く、重症化リスクあり

患者の約6割は15歳以下。リンパ節腫脹・発熱のほか、視神経網膜炎や肝脾肉芽腫を引き起こすこともある。免疫低下者では重篤化する可能性も。

なぜ迅速な診断が難しいのか

🐱

猫との接触

ひっかき傷・唾液・ノミなどから感染

🌡️

原因不明の発熱・症状

医療機関を受診しても診断に至らないことが多い

🔬

特殊な検査が必要

血清間接蛍光抗体法は特殊で、国内検査施設が限られる

🌍

海外への外注・高コスト

大手検査センター経由で海外外注。費用・時間がかかる

📋

数週間後にやっと診断

その間、患者・家族は不安な日々を過ごさざるを得ない

「インフルエンザ検査のように、その場で結果がわかる検査キットを――」
医療現場の切実な声に応えるため、私たちは研究を進めています。

検査キット開発の研究ステップ

1

抗原の特定

バルトネラ・ヘンセレだけが持つ特有の「目印(抗原)」を見つけ出す。質量分析やゲノムライブラリを活用した網羅的な探索を行う。

2

抗原の人工合成

特定した抗原の遺伝子情報をもとに、診断に使用できる部分を人工的に作製する。

3

反応性の検証

人工合成した抗原が、実際の患者血清中の抗体と特異的に反応するか検証し、感度・特異度を確認する。

4

キットの完成・実用化

選定された抗原を用いたELISAキット(高精度)と迅速検査キット(ポイントオブケア)の開発・実用化を目指す。

研究室でのピペット操作・指導シーン
研究室での実験指導
顕微鏡で観察する研究者
顕微鏡による観察
蛍光顕微鏡画像を解析する研究者
蛍光顕微鏡画像の解析

研究スケジュール

2026年度〜2027年度

抗原の全同定

バルトネラ・ヘンセレの構成成分から、患者抗体が反応する全ての目印(抗原)を見つけ出す。現在は質量分析で1つの抗原特定に成功済み。本フェーズではゲノムライブラリを活用した網羅的探索に移行する。

2028年度〜2029年度

検査キット開発・有効性検証

同定した目印を用いてキット開発に着手。猫ひっかき病疑い患者の血清および猫の血清を使って有効性を確認する。

2030年度〜2031年度

ワクチン開発(動物実験・申請)

有効性が確認された抗原を用いた動物使用審査委員会への申請後、山口大学共同獣医学部との共同研究により猫に対するワクチン開発を目指す。

プロジェクト完了予定

2028年3月31日(第一目標達成分)

クラウドファンディングによる研究資金を用いた第一フェーズ(抗原全同定)の完了を目指す。

研究チームメンバー

猫ひっかき病研究グループ 集合写真

山口大学大学院医学系研究科 猫ひっかき病研究グループ

常岡英弘
病態検査学講座 特命教授 / プロジェクトリーダー
常岡 英弘

臨床微生物検査学を専門とし、猫ひっかき病の診断法開発・国内実態解明に長年取り組む。愛猫家が猫と安心して暮らせる社会の実現を目指している。

坂本啓
微生物学講座 教授
坂本 啓

感染症研究・教育に従事。人と猫が良好な関係を継続できるよう、微生物学の立場から両者の健康に貢献する。

木村和博
眼科学講座 教授
木村 和博

猫ひっかき病による視力障害患者を診てきた眼科医として参加。視神経網膜炎など眼合併症の早期発見・治療のため検査キット開発を支持。

度会雅久
共同獣医学部長 / 病態制御学講座 教授
度会 雅久

ワンヘルスの観点から人獣共通感染症に取り組む。医療・獣医療・環境の専門家連携によるリスク低減を推進。

山本健
医学部保健学科長 / 病態検査学講座 教授
山本 健

長年蓄積された患者血清と最新の抗原部位推定技術を組み合わせ、動物と人が安心して暮らせる社会の実現に貢献する。

西川潤
基礎検査学講座 教授
西川 潤

これまでの診断方法の改良による早期診断法の実現と、どこでも使えるキットの普及を目指す。さらに予防法の研究も推進。

大津山賢一郎
病態検査学講座 講師
大津山 賢一郎

「猫ひっかき病」というユニークな名前の裏に潜む多様な症状について広く知ってもらうため、啓発活動にも力を入れている。

メディア掲載実績