呼吸器・健康長寿学
呼吸器・健康長寿学
教授名 | 角川 智之 |
講座メンバー | 角川 智之,土居 恵子,大輝 祐一(大学院生) |
医学科担当科目 | 内臓器官病態学-呼吸器病態系 |
居室 | 第一中央診療棟3階 |
TEL | 0836-85-3123 |
FAX | 0836-85-3124 |
kakugawa@yamaguchi-u.ac.jp |
講座の紹介
わが国では、戦後5%未満であった高齢化率は瞬く間に増加し、令和3年には65歳以上の人口が3,621万人(総人口の28.9%)に達しました。わが国の高齢化は今後も伸展し、2060年には40%に達すると推定されています。我が国は、人類がこれまでに経験したことのない超高齢社会に突入しています。超高齢社会においては、従来の治す医療から「治し支える医療」、さらにはそもそも病気にならないための「予防法の確立」へのパラダイムシフトが求められています。
ヒトは加齢とともに免疫機能が低下し、呼吸器感染症の発症率や重症化率が上昇することが知られています。例えば、加齢はCOVID-19の最も重要な重症化リスク因子のひとつです。また、一般的な肺炎で亡くなる方の97%以上は65歳以上の高齢者です。日本だけでなく世界全体で高齢化が進むなか、高齢者における呼吸器感染症の予防戦略を構築することは、持続可能な社会を形成するために極めて重要な課題です。
この課題を解決するために、私たちは免疫老化と免疫反応の多様性の原因を探索する研究を行っています。同じ病原体に曝露してもホスト側の免疫反応は実に多様です。例えば、ほとんどの人は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても無症状や感冒症状のみで治癒しますが、一部の人は重症化してしまいます。これはSARS-CoV-2に限ったことではなく、さまざまな病原体で同様の現象が観察されています。しかし、この免疫反応の多様性を生むメカニズムは十分に明らかにされていません。
人類のほとんどが免疫を獲得していない新規感染症に対する免疫反応を調査することは、免疫老化のメカニズムを解明するために有効な手段です。私たちはワクチン接種というヒトが均一な抗原刺激を受ける貴重な機会を活用し、医療従事者や高齢者を対象に、COVID-19ワクチン接種前後の免疫反応を約2年間に渡って縦断的に調査しました。その結果、ワクチン接種後の免疫反応は実に多様性に富むことが分かりました。ワクチンを接種すると皆同じように均質に免疫ができると思っている方が多いかと思いますが、ワクチン接種後の免疫反応には非常に大きな個人差がみられます。私たちの研究では、免疫の老化は加齢だけでなく、個人の健康状態(身体活動性や栄養状態など)によっても促進されることが明らかとなりました。さらに私たちは、慢性炎症の程度や腸内細菌叢の状態が免疫老化と関連しているのではないかと考え、研究を進めています。加齢それ自体は避けることができないことですが、個人の健康状態を改善・維持することは様々な医学的介入によって達成されうるものです。私たちの研究結果は、高齢者の呼吸器感染症予防のために私たちがなし得ることが、まだ数多く存在することを示唆しています。これは私たちの研究の一例ですが、このほかにも、私たちは様々な視点から免疫老化のメカニズムを解明し、それを克服するための方法を探索しています。
日常診療においては、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチン、COVID-19ワクチン、RSウイルスワクチンなどの適切な接種、フレイルの進行予防、歯科衛生士による定期的な口腔ケア、栄養状態の改善、嚥下機能の評価と食形態の調整、嚥下機能に悪影響を及ぼす薬剤の減量・中止など、呼吸器感染症を予防するためには様々な方法があります。私たちは、呼吸器感染症予防の正しい知識を普及するための啓発活動も行っています。
私たちは、真に豊かで成熟した健康長寿社会を実現するために、今後も診療・研究・教育・啓発活動に取り組んでまいります。