呼吸器・健康長寿学
呼吸器・健康長寿学

| 教授名 | 角川 智之 |
| 講座メンバー | 角川 智之,土居 恵子,大輝 祐一 |
| 医学科担当科目 | 内臓器官病態学-呼吸器病態系 |
| 居室 | 綜合研究棟C棟6階 |
| TEL | 0836-85-3123 |
| FAX | 0836-85-3124 |
| kakugawa@yamaguchi-u.ac.jp |
講座の紹介
わが国では、戦後5%未満であった高齢化率は急速に上昇し、2024年には65歳以上人口が3,624万人に達し、総人口の29.3%を占めるようになりました。さらに75歳以上人口は2,078万人となり、総人口の16.8%を占めています。今後も高齢化は進行し、2070年には国民の約2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上になると推計されています。日本は世界に先駆けて超高齢社会に直面しており、その課題解決に向けた医療・予防戦略の構築が強く求められています。
このような社会においては、従来の「病気を治す医療」だけでは十分ではありません。私たちは、「治し支える医療」、さらには病気そのものを予防する「予防医学」の確立が極めて重要であると考えています。
特に呼吸器感染症は、高齢者の健康寿命を脅かす大きな課題です。加齢に伴う免疫機能の低下(免疫老化)は、肺炎、インフルエンザ、COVID-19、RSウイルス感染症などの発症・重症化リスクを高めます。実際、肺炎による死亡の97%以上は65歳以上の高齢者であり、加齢はCOVID-19重症化の重要な危険因子の一つでもあります。高齢者の呼吸器感染症をいかに予防するかは、日本のみならず世界的に重要な課題です。
この課題を解決するために、私たちは免疫老化と免疫反応の多様性の原因を探索する研究を行っています。同じ病原体に曝露しても、ホスト側の免疫反応は実に多様です。例えば、ほとんどの人は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても無症状あるいは軽症で回復しますが、一部の人は重症化します。このような免疫反応の個人差が生じるメカニズムは、いまだ十分に解明されていません。
私たちは、医療従事者および高齢者施設入所者を対象として、COVID-19ワクチン接種前後の免疫反応を約1年間にわたり縦断的に解析してきました。その結果、ワクチン接種後の中和抗体価は加齢と負の相関を示し、加齢が免疫老化の主要な要因であることが改めて示されました。一方で、重回帰分析では年齢そのものよりも身体活動性(performance status)との関連がより強く認められ、免疫老化には加齢だけでなく、身体機能や生活機能の低下が深く関与している可能性が示唆されました。さらに、追加接種(ブースター接種)による変異株に対する免疫応答の変化についても明らかにしました(Immunity & Ageing 20(1):42, 2023)。
さらに、ワクチン接種後の細胞性免疫についても詳細な解析を行い、高齢者における炎症性・抗炎症性免疫応答の長期的変化を明らかにしました(Immunity & Ageing 21(1):41, 2024)。
また、高齢者施設入所者の標準化データを活用し、重度の機能依存状態にある高齢者の肺炎リスク因子を明らかにし、より早期の予防介入につながる知見を報告しました(Geriatrics & Gerontology International 26(3), 2026)。
さらに、COVID-19パンデミック下で呼吸器感染症が世界的に激減した状況を“自然実験”として利用し、全国規模の診療データを用いて特発性肺線維症急性増悪(AE-IPF)の発症動向を解析しました。その結果、AE-IPF病態における呼吸器感染症の寄与は従来考えられていたほど大きくない可能性を示し、非感染性機序の重要性を示唆する知見を報告しました(Respiratory Investigation 64(1), 2026)。
現在は、身体活動、栄養状態、慢性炎症、腸内細菌叢などが免疫老化に与える影響について研究を進めています。加齢そのものを止めることはできませんが、免疫老化を促進する要因を明らかにし、それに介入することで、高齢者の健康寿命延伸につながる可能性があります。
日常診療においては、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、COVID-19ワクチン、RSウイルスワクチンなどの適切な接種に加え、フレイル予防、口腔ケア、栄養状態の改善、嚥下機能の評価、薬剤調整など、多面的な呼吸器感染症予防にも取り組んでいます。また、呼吸器感染症予防に関する正しい知識を社会に普及するための啓発活動も行っています。
私たちは、診療・研究・教育・啓発活動を通じて、科学的根拠に基づいた予防戦略を確立し、真に豊かで持続可能な健康長寿社会の実現に貢献したいと考えています。
