医学部長挨拶

山口大学医学部・大学院医学系研究科のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。
「医学はいつの時代も、患者への問いから始まる」と、私はそう考えています。病を克服したいという人類の切実な願いが医学を発展させてきたように、医療者もまた、目の前の患者さんへの誠実な向き合いを原点に、自らを磨き続けなければなりません。本学医学部が長年にわたって大切にしてきたのも、まさにその精神です。
山口県は、幕末の志士たちが松下村塾で「変革への意志」を燃やした地です。時代の潮目を読み、果敢に行動するこの風土は、本学医学部の気風にも深く刻まれています。昭和19年の創立以来、本学は幾度かの変遷を経ながら、常に時代の要請に応える医師・研究者・医療行政者を世に送り出してまいりました。そして今、医学は新たな転換点を迎えています。
近年の最も大きな変化のひとつは、AIとデータサイエンスが医学・医療の根幹に組み込まれつつあることです。本学はいち早くこの流れを見据え、全国の医学部に先駆けてシステムバイオインフォマティクス講座を設立、続いてAIシステム医学医療研究教育センター(AISMEC)を創設しました。医療ビッグデータを駆使した疾患の予測・予防・治療法の開発は、すでに具体的な成果を生み始めています。
さらに本学は、細胞デザイン医科学研究所を新たに立ち上げました。細胞そのものを「設計する」という発想のもと、再生医療・創薬・難治性疾患の克服に向けた基礎から臨床への橋渡し研究を推進しています。AIによるビッグデータ解析と、細胞レベルの精緻な生命科学研究————この二つの柱が融合することで、本学の研究は新たな高みを目指します。
教育においても、本学は独自の歩みを続けています。「自己開発コース」では、学生が自らの意志で研究室を選び、全国最長水準の5か月間にわたって本格的な研究に没頭します。その舞台は学内にとどまらず、10か国・20拠点以上の海外研究機関にも広がっています。また保健学科では、アジア太平洋地域の大学と連携したAPAHL(Asia-Pacific Alliance of Health Leaders)を通じ、看護・健康科学の国際的リーダーを育成しています。創刊から20年を超えるわが国唯一の国際誌 『Nursing and Health Sciences』も、本学の国際発信力の象徴です。
医師と患者の関係もまた、大きく変わっています。かつての「医師が決める医療」から、患者さんと医療者が対話を重ねて共に決断する「患者中心の医療」へと変化してきています。この変化は、知識や技術だけでなく、深い人間理解と誠実なコミュニケーション能力を医療者に求めています。本学が「豊かな人間性の涵養」を教育の根幹に置き続けるのは、そのためです。
目まぐるしく変化する社会の中で、医学部に期待される役割はこれまで以上に大きくなっています。医療格差、少子高齢化、新興感染症、そして薬剤耐性菌の脅威など、今日の医療が直面するこれらの課題に応えるためには、高い専門性とともに、社会全体を見渡す広い視野と強い使命感が求められます。本学医学部は、地域医療の担い手として、また国際社会に貢献する研究者として活躍できる人材の育成に、これからも全力で取り組んでまいります。
皆さんとともに、山口大学医学部の新たな章を刻んでいきたいと思います。
山口大学大学院医学系研究科長
山口大学医学部長
山口大学医学部医学科長
木村 和博