革新技術! 体外からがん組織を深部まで観察できる 近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子の作製に成功 ~がん医療における”診断と治療の一体化(セラノスティクス)”の実現に一歩前進~
山口大学大学院医学系研究科の中村教泰教授のグループは、徳島大学大学院医歯薬学研究部の安倍正博教授、九州大学歯学研究院の林幸壱朗准教授のグループと共同で、蛍光生体イメージングで体外からがん組織を深部まで観察できる近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子の開発に成功した。
【発表のポイント】
・蛍光生体イメージング診断法を利用して体外からがん組織を深部まで観察できる近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子の開発に成功した。
・がん組織の表面から深部までの深度を調整した観察と免疫細胞の体内動態の長期間の観察に成功した。
・独自開発した有機シリカナノ粒子において、アップコンバージョンを含む多彩な蛍光特性を発見した。
【概要】
蛍光生体イメージング診断法は、がんの早期発見や術中観察など医療や医学研究への活用に期待されています。本研究チームはがん組織を体外から観察できるだけでなく、励起光の波長を調整することにより表面から深部まで深さを調整しながらがん組織を観察することに成功しました。また本ナノ粒子は安全性も高く、生体内で長期間の観察が可能であることも実証されました。さらに免疫反応の生体外からの観察も行うことができました。重要な免疫細胞の一つであるマクロファージを生体内で標識して、異種細胞を移植したところ、移植部位にマクロファージが移動し、拒絶反応に寄与する様子が観察できました。これらの成果は、画像診断を含むがん研究や免疫学研究、再生医療への応用が期待できます。さらに本粒子の光学特性を検討し、近赤外蛍光に加えて可視蛍光、さらには近年注目されているアップコンバージョンと呼ばれる励起光より高エネルギーの光が発生する特性も発見されました。
米国では本研究成果と同様の近赤外蛍光シリカナノ粒子が、がん造影剤として既にヒト臨床治験が進められ、診断薬や治療薬としての開発が進んでいます。治療効果を持った近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子の開発も進行しており、本研究成果はがん医療における”診断と治療の一体化(セラノスティクス)”の実現に繋がるものです。
本研究成果は、アメリカ化学会専門誌Chemistry of Materials (IF; 9.567, DOI: 10.1021/acs.chemmater.0c01414)に2020年8月24日に公開されました。
【発表論文誌の情報】
タイトル: Near-Infrared Fluorescent Thiol-Organosilica Nanoparticles that are Functionalized with IR-820 and Their Applications for Long-Term Imaging of in situ Labeled Cells and Depth- dependent Tumor in vivo Imaging.
著者: Michihiro Nakamura, Koichiro Hayashi, Junna Nakamura, Chihiro Mochizuki, Takuya Murakami, Hirokazu Miki, Shuji Ozaki, Masahiro Abe
掲載誌: Chemistry of Materials
DOI: 10.1021/acs.chemmater.0c01414
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