免疫でがんに挑む CAR-T細胞療法 ~新しい免疫療法の開発:山口から世界へ
免疫でがんに挑む CAR-T細胞療法 ~新しい免疫療法の開発:山口から世界へ
山口大学大学院医学系研究科・免疫学講座の玉田耕治教授らの研究グループは、固形がんに対して極めて治療効果の高い免疫機能調整型次世代キメラ抗原受容体発現T細胞である『PRIME CAR-T細胞』を開発しました。
エフェクターT細胞療法のひとつである CAR-T細胞療法は、血液がんに対して非常に高い有効性が実証されており、日本を含む複数の国で既に医薬品として承認され、従来の治療法では効果のない患者さんに対して高い治療効果を示しています。しかしながら血液がん以外の固形がんに対して有効性を示し、医薬品として承認された CAR-T細胞療法は未だ存在せず、さらなる技術改良を進めた次世代型 CAR-T 細胞療法の技術開発及び臨床応用が急務とされています。
玉田教授ら研究グループは、免疫機能をコントロールする能力をCAR-T細胞に追加することでこの問題の解決が図れるのではないかという考えに基づいて研究に取り組み、免疫機能調整能力を有する次世代CAR-T細胞を『PRIME CAR-T細胞(Proliferation-inducing and migration-enhancing CAR-T細胞)』と命名し、その開発に取り組んできました。2018年にはIL-7と呼ばれるサイトカインとCCL19と呼ばれるケモカインの両方を同時に産生する能力を有するCAR-T細胞を新規に開発しました。
動物モデルでの検討では、PRIME CAR-T 細胞は固形がんを有するマウスに対して静脈注射での投与で従来の CAR-T 細胞よりも顕著にがん組織に集積し、極めて高いがん治療効果を発揮することが報告されています(Nature Biotechnology, 36 (4) : 346 -351, 2018)。現在日本国内において固形がんを対象とした PRIME CAR-T 細胞療法の臨床試験が進行中です。
従来のCAR-T細胞はがん細胞を直接殺す機能ばかりに注目が集まっていましたが、PRIME CAR-T細胞技術は、生体にもともと備わっている免疫機能をコントロールする分子の「デリバリーシステム」としての役割も担っており、これまでのCAR-T細胞の概念を大きく変えるパラダイムシフトと言えます。PRIME CAR-T細胞技術が、これまで血液がんにしか有効性が認められなかったCAR-T細胞療法の適応範囲を固形がんにまで拡大させる、画期的な固形がん治療法につながることが期待されています。
この研究は大学発企業「Noile-Immune Biotech」に引き継がれ、PRIME CAR-T細胞のがん免疫療法を介して、固形がんに対する安全かつ有効な治療薬を開発する事業を展開しています。
(参考)https://www.yamaguchi-u.ac.jp/news/14597/index.html