研究の詳細

植物の環境ストレスと活性カルボニル種(RCS)の研究

「光合成研究」第24巻第3号に発表した解説記事「活性酸素は生体分子にどう作用するか?— 酸化シグナルを伝える活性カルボニル種の生成と作用」をご覧下さい。(pdf,P84)


活性カルボニル種が植物においてシグナル分子として作用する証拠 (1)

<Biswas and Mano (2015) Plant Physiol. 168: 885-898. の要約>
・ 活性酸素(ROS)が植物の環境ストレス傷害の原因であることは知られていましたが,ROSがどのように細胞に障害をもたらすか,生化学的なしくみはほとんど分かっていませんでした。
・ 私たちは,活性酸素による植物細胞傷害の過程を詳しく解析しました。
・ タバコ培養細胞(BY-2細胞)に活性酸素(過酸化水素)を与えると,プログラム細胞死(PCD)が始まります。このとき,細胞死が明らかに観察されるよりも早い段階で,さまざまな「活性カルボニル種」が細胞の中で生成することが分かりました。活性カルボニル種とは,活性酸素が脂質と反応し,酸化された脂質が分解して生成するアクロレインや4-ヒドロキシ-2-ノネナール(HNE)といった,α,β-不飽和アルデヒドまたはケトンの総称です。
・ 活性カルボニル種を薬剤または特異酵素で消去すると,過酸化水素を加えてもPCDは起きないことがわかりました。すなわち,活性酸素によるPCDは,活性酸素が直接的な毒として作用するのではなく,活性酸素がつくる活性カルボニル種が直接の原因だということがわかりました。

<Biswas and Mano (2016) Plant Cell Physiol. 57: 1432-1442. の要約>
・ 活性カルボニル種が植物のPCDを引き起こすメカニズムを解明しました。
・ タバコBY-2細胞にアクロレインを与えると,PCDが起こるとき濃度のアクロレインを与えたときのみ,タンパク質分解に関わるカスパーゼ3様プロテアーゼ(caspase-3-like protease:C3LP)が高いレベルの活性化を受けました。また,過酸化水素による刺激でも,PCDが起こる濃度を与えたときのみ,C3LPが同じように高いレベルの活性化を受けました。
・ 細胞抽出液にアクロレインまたはHNEを加えると,C3LPが活性化されました。すなわち,活性カルボニルはC3LP活性をもつタンパク質(おそらく20Sプロテアソーム)に直接作用して活性化しています。一方,細胞抽出液に過酸化水素を加えてもC3LP活性は全く増大しませんでした。したがって,C3LPの活性化に過酸化水素は関わっていません。
・ 活性酸素から活性カルボニル種が生成され,これがC3LPを活性化することで植物のPCDが開始される,という植物の環境ストレス傷害の新しい生化学的メカニズムを明らかにしました。

活性カルボニル種が植物においてシグナル分子として作用する証拠 (2)

<Islam et al. (2016) Plant Cell Physiol. 57: 2552-2563. の要約>
・アブシシン酸(ABA)による気孔閉口シグナル伝達経路の一部にはH2O2がシグナル伝達物質としてはたらくことが知られていました。
・本研究では,ABA刺激によって孔辺細胞でH2O2が増大するとき,RCSがそのシグナルを伝え気孔閉口を引き起こすことを明らかにしました。
・RCS消去酵素であるAERを過剰発現させたタバコの葉の表皮細胞を用い,以下の実験結果を得ました。(1) ABA添加により,野生株ではRCSが増大するが,AER過剰発現株では増大が小さい。(2) AER過剰発現株はABA添加に応答した気孔閉口が野生株より小さい(ABAに応答しにくい)。(3) 野生株表皮にRCSを与えると気孔閉口が誘発され,RCSを洗い流すと気孔が再開口する。

活性酸素と植物の環境ストレスの研究

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