本事業は、本学共同獣医学部とケニアのナイロビ大学獣医学部の連携を軸に、アジア―アフリカにおける獣医学教育・研究の連携を発展させ、ヒト、動物、環境の健康(One Health)に関する問題のうち、特に重要な「感染症」に焦点を絞り、学生が相互交流によりグローバルな視点から学ぶことで、当該分野に貢献する獣医師を育成するプログラム構築を目指します。
各地域に特有の地理的要因や社会的背景に起因する感染症の問題は、その地域にとどまらず、人や物流のグローバル化に伴い急速に拡散し、人々の健康、食料供給、さらに経済活動等に対し大きな脅威となっています。そのため、各地域の実情に根差した感染症対策は、One Healthの実践において非常に重要となります。
感染症の制圧には、公衆衛生と家畜衛生を基本とした疾病対策が重要であり、獣医師はその中心的な役割を担います。そのため、One Healthに貢献できる獣医師のニーズは世界的にますます高まっており、グローバルな視点に立って種々の問題に対処できる知識、技術を持ち合わせた獣医師の育成が強く求められています。
このような獣医師の養成プログラムにおいて、自国のみならず環境や社会的状況の異なる国や地域で学ぶ機会は、よりレベルの高い知識、技量、広い視点を持ち合わせた獣医師の育成に欠かせません。アフリカは、家畜に深刻な被害を発生させているバベシアやトリパノソーマ等の原虫病、節足動物媒介性を含む人獣共通感染症となるリフトバレー熱や黄熱、デング熱、病原性の高いエボラ出血熱やクリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱など、日本ではみられないがグローバルな問題となる感染症の流行地です。
そのため、日本の獣医学部生・大学院生にとって、アフリカにおけるヒト・動物の健康状況、公衆衛生・家畜衛生、さらに現地における獣医学教育、獣医師の役割を直接学ぶ機会を得ることができれば、その意義は非常に大きく、また、アフリカの獣医学生・獣医師にとっても、地理的状況、社会的背景が大きく異なる日本における獣医師の役割、公衆衛生対策や臨床獣医療の現場から学べる価値は非常に高いものとなります。山口大学はこれまで、東南アジアの各大学との獣医学教育研究連携を活発に行っており、国際水準の獣医学教育を背景とした東南アジア地域における獣医学教育研究体制の構築を推進しています。
一方、本事業のカウンターパートとなるナイロビ大学は、同国のエガートン大学やルワンダ等のアフリカ諸国における大学獣医学部と教育ネットワークを築いています。そこで本事業では、遠隔システムによる共通講義やグループディスカッション、学生や若手教員の受入れ・派遣による現地での実習・交流、企業や研究機関の協力による研修等を活用し、感染症対策を中心とした One Healthに資する相互の獣医学教育の発展を月指します。また、将来的には本事業を足掛かりとし、山口大学(日本)を軸としたアフリカ―アジアに広がる獣医学教育ネットワークの構築につながる事業を目指しています。
獣医師の活躍の場は広く、公衆衛生・家畜衛生獣医師、臨床獣医師、研究者、教員等多岐にわたりますが、いずれの職種においても、ヒト・動物の感染症対策を基盤としたOne Healthに関する知識、技量は基本となります。
そこで、本事業による教育プログラムで身につけた知識、技術、人的ネットワークを基に、獣医師の専門性を活かし、グローバルな視点からOne Healthの実践に貢献できる人材を育成します。
特に、動物由来の新興感染症や家畜の感染症を対象とした研究者を志す獣医学生を積極的に育て、日本・アフリカの両国において、実験室における基礎・応用研究から野外でのフィールドワークまで、幅広い視点で感染症対策に貢献できる人材育成を目指します。