山口から始める文化財修復と日本画の新潮流
2016年採択プロジェクト紹介(2)
プロジェクト名:山口から始める文化財修復と日本画の新潮流
研究代表者:堤 宏守 教授(創成科学研究科(工))
概要を教えてください。 この研究プロジェクトの表題にある日本画は、少し広い意味で考えており、寺や神社にある板画や壁画等の文化財も含まれています。日本画は、岩絵具(色の付いている鉱物を砕いたもの)と膠(にかわ)と混ぜて絵具にして、布や板、紙など(基底材と呼びます。)に描くものです。膠は動物の皮や腱に多く含まれるコラーゲンを主成分とする物質で、ここでは岩絵具を基底材の表面に留まらせる接着剤の役割を果たしています。この膠が年月を経て劣化すると、岩絵具(石の粉)が基底材から剥がれ落ちてしまいます。この剥がれ落ちるのを防ぐために、過去(特に昭和30年代~40年代)に合成樹脂を吹きつけて修復したところ、当初透明であった合成樹脂層が白く濁り絵が見えなくなったり、合成樹脂層が絵画ごと剥がれてしまったりすることが大きな問題となっています。 プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?昭和30年から40年代にかけて修復に使用された合成樹脂を用いた剥落防止剤が白く濁って絵が見えなくなってきていることや、それを除去しながら修復できる独自の技術について、選定保存技術保持者に認定されている馬場先生から相談がありました。馬場先生は、平等院鳳凰堂をはじめとする、各地の寺社の板絵や壁画の修復を独自に開発された手法を用いて行っておられます。この手法に対する科学的裏付けがはっきりしないことから、その作用機構を解明し、さらに広汎な修復方法として確立したいという強い希望を馬場先生はお持ちでした。また、山口県内や近隣地域において、修復されないまま放置されている文化財がたくさんあり、これについても大学の力を利用して地域貢献という形で何とかできないかといったところが出発点です。 具体的にどのようなことをするのですか このプロジェクトでは、顔料関連グループ、膠関連グループ、文化財修復・美術史グループの三つのグループに分かれて、開発された膠がどうして有効に働くのか、その膠で修復すべき文化財が、どこにどのくらいあるのかを中心に調査していきます。 最後に一言お願いします。 文化財修復の世界はいろいろと難しい問題があるようです。修復に携わる人も少ない、予算も少ない、しかし修復すべき文化財は山ほどある。修復するにも、剥がれないようにするだけなのか、元の姿に戻すのか、持ち主(修復の依頼主)の想いもあり、修復には美術的な感性も必要です。 |