文化財修復の温故知新:日本画の新潮流及び山口型・文化財保存修復研究センタープロジェクト
2019年採択プロジェクト紹介(2)
プロジェクト名:文化財修復の温故知新:日本画の新潮流及び山口型・文化財保存修復研究センタープロジェクト
研究代表者:中野 良寿 教授(教育学部)
概要を教えてください。 この研究は、平成28~30年度に行ったプロジェクト「山口から始める文化財修復と日本画の新潮流」を引継ぐもので、山口型とも呼べるような地域密着型文化財保存修復研究を目指すと共に、最終的には、文化財保存修復センターの設立と、センターにおける研究活動を目指します。文化財保存修復の第一人者である馬場良治氏が開発した絵画の剥落止めの膠(にかわ)や美祢市にある長登銅山のリサーチなど日本画では本来使用していた素材に回帰するような方法での新たな保存修復技術の新潮流の可能性を探ります。山口県は、縄文、弥生時代から大陸への窓口として栄え、多数の遺跡群があります。また、奈良時代以降の歴史を反映する多数の文化財が残っているのですが、これら文化財を本格的に学術機関と連携し保存、修復できる専門研究機関は山口県にはありません。 プロジェクトを計画しようと思ったきっかけは何ですか?私は教育学部で平面造形や絵画、現代アートなどの内容を含む授業を担当しているのですが、10年位前の集中講義から毎年馬場良治先生をお呼びしてまして、以前のプロジェクトの前から先生の活動内容は紹介してもらっていました。京都の三千院などの再現模写をスライドで見せてもらったり、どういう軸で仕事をされているのか、お聞きしていました。また膠や墨、顔料などの素材や技法を教えていただいたり、日本画家の大家で日本のみならずアジアの文化財の保存修復に尽力なさった平山郁夫先生との繋がりだったり、狭い意味での専門は違うのですが、広い意味で私の周りの知り合いが関わっていて、関連付けしやすいジャンル(保存修復)でした。宇部市に馬場先生の自宅、工房、文化財修復研究所があり、そこと大学と繋いで何かできないかというのがきっかけです。 具体的にどのようなことをするのですか このプロジェクトは、《素材研究部門》と《文化財保存修復部門》の2つの部門からなります。《素材研究部門》は、文化財保存修復に関わる素材研究を推進します。具体的には、絵画(顔料〈岩絵具〉、膠、紙、絹など)、彫刻(木材、石材、金属など)、工芸(漆、木竹、釉薬など)の素材研究で、この部門で「山口から始める文化財修復と日本画の新潮流」を引き継ぐ形で、「膠関連グループ(堤、野崎、堀川)」による膠の構造科学的研究、「文化財修復美術史グループ(菊屋、中野、上原)」による修復を必要とする文化財調査に関する研究、「顔料関連グループ(永嶌、菊屋、中野、上原)」による顔料に用いられる鉱石・岩石に注目した研究、以上の3グループが独自の研究を行うと共に、各グループによる会議を設置して、プロジェクトの全体的な方向性の協議や協議結果の共有、進捗状況の共有を行います。 最後に一言お願いします。山口県の文化財の保存修復の現状は管理やコストの面で非常に難しい面もありますが、宇部市に馬場先生がいて保存修復のノウハウや施設空間などの条件が揃っていますし、なおかつ山大では創成科学研究科などの理系研究者や文系学部での美術系研究者や埋蔵文化財資料館もあるので、できれば古美術・埋文・現代アートのアーカイブを含めたうえでの文化財修復センターというものを構想できたら素晴らしいと思います(模索中)。それはアジアにも視野を広げて展開して行きたいです。さらに山大の産学連携という意味で、ベースになっている開発した膠をぜひ世に出して、様々な領域の人たち、センター、専門家と連携し、文化財の保存修復に貢献するプロジェクトを発展させたいと思っています。 |