学科紹介

学科長挨拶

感性デザイン工学科学科長

三浦克弘

2024年度に感性デザイン工学科学科長を務めます、三浦克弘です。感性デザイン工学科は建築に関する研究、教育を主な対象としています。建築の研究と教育に対する学科の取り組みを紹介いたします。

元々自然の中で過ごしていた人間は建物の中で大半の時間を過ごすようになっています。そのため、建物内部はbuilt environment、人工環境と呼ばれ、自然界とは異なると認識されています。いわばシェルターとしての役割を担っているわけですが、この他に、ステイタスの象徴として捉えられることもあります。建築は内部の人間それぞれに対する役割と共に、社会的な役割を求められるということです。歴史的に見ると、社会の変化に伴いコミュニティや自治を支える公共施設が発生し、目的に応じた機能を備えた建築になって行きます。これらの機能を担う建築はスケール、空間的な広がりを持つため、周辺地域、周囲環境に影響を与えます。建築は単体で存在するのではなく、周辺、周囲との関係で存在するのです。

当学科ではこれら複雑な要素を取り扱う必要がある建築を4つの分野に分けて研究と教育を行っています。

まず、構造系です。地震国である日本で人々の安全を支える重要な分野です。建築を構成する材料や部材の理解とともに、構造全体で建物を支えるシステム的な考え方が求められます。壊れない建築を考えるためには、壊れる条件を明確にする必要があります。また、建築材料の脱炭素、地球環境負荷削減も重要なテーマです。

次に環境系です。冒頭に述べた人工環境のコントロールや省エネルギーの実現が重要なテーマです。環境系の特徴は周囲の自然を受けて建築内部に形成される環境を考えるパッシブな思考と、環境を積極的にコントロールするアクティブ的な思考の両方が求められる点です。求められる環境も人だけではなく物や製品も出発点として考える必要があります。

そして計画系です。建築内部や外部の人や物の動きは建物の使い勝手に関係する重要な要素です。対象は建築単体のみではなく、街区の中の機能や街区におけるコミュティの形成も対象です。建築は社会的に50年程度の寿命があります。物理的、社会的な寿命を超えた、数百年を経た建築もあります。時間軸である歴史の中で現在の建築を考えることも重要です。

最後にデザイン系です。建物の外観だけではなく、内部にも意匠的な統一性が求められます。建築単体と言うより、地域の町並みや自然との調和を歴史的な文脈の中でデザインを具体化して、過去、現在、未来の中で違和感のない景観を実現します。建築は上述4つの分野を社会的、時間的、環境的に統合する役割を担います。そのため、当学科は、基本的な素養として物理、科学、などの自然科学と共に、歴史、美学等の人文科学、社会科学を必要としており、工学部の中では特異な学科です。建築に関連する様々な情報をデータサイエンスを駆使して分析し、国内のみではなく海外ともコミュニケーションをとることが求められる時代になっています。基礎知識の範囲が広がっていますが、やりがいを感じています。寿命の長い建築には計画、設計、施工、運用、解体といった様々な状況が発生し、それぞれの状況で必要な技術、技能も異なります。当学科はこれらの要請に研究と教育の側面で取り組んでいます。

手法を学ぶ
建築構造学

地震国である日本では耐震性の高い建築物を造る事が、人々の命や財産を守るためにとても大切です。今日まで過去の大地震で発生した被害を教訓として発展してきた日本の耐震技術は世界でもトップクラスですが、近い将来に起こることが危惧されている南海トラフ巨大地震をはじめとした大地震に備えるため、さらに発展させていく必要があります。建築構造学研究室では主に鉄筋コンクリート造建築物を対象として研究開発に取り組んでおり、大型加力装置を用いた構造部材の加力実験、構造解析プログラムを用いた地震時シミュレーション、地震被害の現地調査などを行っています。

建築材料学

建築材料の合理的な選択・使用は、建築物の安全性と長寿命化、さらにはカーボンニュートラルと循環型社会の実現のために非常に重要です。当研究室は、構造材料として使用量が膨大なコンクリートの設計・製造・施工・補修・再利用について先端技術の研究開発を行っています: ①環境性能の評価法と環境配慮型調合設計法; ②廃棄物を主原料とし、セメントクリンカーを使用しない低炭素コンクリート・仕上げ材; ③CO2固定/吸収コンクリート; ④流動解析に基づいたコンクリートの施工性能の評価と最適化技術; ⑤劣化したコンクリートの補修材料と工法; ⑥コンクリート内部における中・低品質再生骨材の改質による高品質コンクリートの製造技術 等。

建築施工学

「建築施工学」部門では、「建物の構造安全性向上」として、構造的に特徴のある建物の骨格をデザインする研究や、地震だけでなく飛来物による衝突に対しても安全・安心を確保する研究を進めています。また、「先端技術の設計や施工への適用」として、数学的手法やAI(人工知能)による支援によって設計図を描く方法や、VR(仮想空間)で建物を施工することにより、施工計画時に有用な情報を提供する技術についての研究も行っています。

特徴的な建物の合理的な骨格を3Dプリンターで製作(上)や鉄筋コンクリート板に飛来物が衝突する状況の数値シミュレーション(下)
VR(仮想空間)で建物を建てていくことでコストや工程表を自動作成するツール
快適性を学ぶ
建築環境工学

地球温暖化ガスの排出量削減が世界的な課題となっており、国内においても建物の省エネルギー化は最重要課題のひとつとして位置付けられています。これまでの省エネに加え「創エネルギー」を導入し、建物で消費するエネルギー量より、建物オンサイトで創るエネルギー量が多い=ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)に注目が集まっています。本研究室では、ZEBに関連する研究テーマに積極的に取り組んでいます。また、コロナウィルス感染症対策の一環として、冷暖房と窓開け換気の両立について、その運用方法や省エネルギー性能に関する研究を行っています。

住宅内の隔離部屋換気シミュレーション結果
室内温熱環境調査
建築設備工学

快適で生産性の高い環境を小さい環境負荷で作ることができる建築設備システムの研究・開発を行っています。太陽熱や地中熱などの自然エネルギーを利用した空調システム、 高効率な建築設備システムの開発などに取り組んでいます。また人間を取り巻く熱・空気環境に関する研究,特にIndoor Air Quality(室内空気質)の研究に力を入れており、 建材等から放散されるSVOC(準揮発性有機化合物)の放散挙動の解析, 新築住宅における室内空気質の調査, コロナ禍における大学講義室の最適換気法の研究などに取り組んでいます。

展開力を学ぶ
建築計画学

建築計画学分野では、少子高齢化や過疎化等の日本の社会構造の変化に対応した、地域施設や住宅等のあり方に関する教育・研究及び実践活動に取り組んでいます。特に、様々な課題を抱える現代の地方都市や中山間地域において、建築に求められる機能や役割も多様化しており、当分野では新たな計画・設計手法の検討に加え、既存建築ストックに新たな価値や役割を付与する為の方法論構築まで多岐にわたる領域を扱っています。また、各研究・活動の前段階として、詳細なフィールドワークを行い、対象となる地域や施設の特性を読み解くことで、それぞれの個性を生かした計画立案へと繋げる取り組みを実践しています。

都市計画学

都市計画学分野では、機能性、安全性、美観性に優れた快適な都市や地域をデザインする手法について研究活動を行っています。国内外の都市をフィールドとして、土地利用制度、市街地再生、景観、都市住宅、低炭素まちづくりなどのテーマに取り組み、持続可能な都市空間を実現する手法について科学的な調査、研究成果を国内外に発信しています。

センスを学ぶ
建築デザイン学

建築デザイン学分野では、地域の課題を発見し、課題解決のための提案を重視しています。そのために、出来るだけ実践プロジェクトに参加し、地域で生活する人々と協働しながら構想し、具体的な建築空間へと展開するデザインプロセスを体験します。企画構想や設計提案を行うなかで、地域の自然環境や生活文化との関係の中で建築を捉え、人間の生活に求められる建築空間を構想し、表現出来るデザイン力の養成を目標に教育・研究を行なっています。

感性情報学

感性情報学はデザイン学と画像処理領域から成ります。画像処理領域は、視覚・聴覚などの五感情報を計測し、人の視覚や聴覚の計算モデル構築し脳の活動を解明しています。さらに得られた知見をもとにコンピュータビジョンや次世代インターフェースの研究を行なっています。