学科紹介

学科長挨拶

感性デザイン工学科学科長

山田和彦

 人は生きている間の大部分を建物の中で過ごす。食べる。寛ぐ。入浴する。勉強する。仕事をする。買い物をする。いずれも、建物の中で行う。殆どの人にとっては、自分の家を建てるのは一生に一度のイベントであり、スマホを買う数百倍の、車を買う数十倍もの金をかける。経営者にとっても、事務所を借りる、店舗を構えるために費やす経費は悩ましい課題である。そのために、建物は理にかなった設えであることが望ましい。作り手は、その期待に応えなければならない。
 豪華客船や飛行機は大きいが、それより大きい建物はいくらでもある。船や飛行機のように建物は動くはずがないが、地震や風が来ると揺れ動き、時には壊れる。だから作り手は、建物を揺れないように、壊れないように施さなければならない。紙で作る工作では鋏や糊を使い、少々の不手際があってもやり直せる。木材、鋼材、コンクリートで作る建物では、クーレーンを使い資材を運び、特殊な工具を使う溶接やボルトなどにて留め、重機で土に穴を掘って均し据え付ける。巨人ならば工作のように建物を建てられるかもしれないが、そうはいかない。作り手は、安全で無理無駄のないように知恵を絞って建てなければならない。
 人は、建物の中では快適であることを求める。日中は適度な陽の光が入ることを、夜は安らぎの明かりの下で寛ぐことを。夏には、暑い外とは隔たれた涼しさの中で勉強し、仕事をしたい。冬には、モコモコに着込み白い息を吐きながら食事をしたいとは思わない。夏でも冬でも、エアコンをガンガン使えば快適に過ごせるかもしれないが、電気代がかかるし、地球規模でみると良くない。作り手は、自然の理を上手に使わなければならない。
 ポツンと一軒家で暮らす人は少ない。人は集い、集落、街、都市を構成する。そこでは、仕事、ショッピング、観劇、スポーツなど住むだけではない目的のための器も用意される。さらに、人は、そこに行くための利便性を求める。そのために駅、港、空港がいる。作り手は、人々をある時は心地よく留めて、一方で、ある時は人々の動きを滑らかにしなければならない。
 人は、服や髪といった外見で自らの感性を表す。建物にも感性を映すことができる。作り手は、建物の外観を周りと調和させる、もしくは、周りにアクセントを与えるように図る。建物に映える感性は外観だけではない。人は、建物内部に仕込まれた感性の方をより実感する。空間の大きさ、明るさ、温かさ、静けさ、さらには臭いを感じる。それを仕込むのは作り手の腕の見せ所である。
 ということを考え応えるために、作り手は、一昔前には電卓で計算し、手書きで図面を書いて建築を表現していた。今は、パソコンでシミュレーションした結果をもとにCAD図にて表す。では、今のこの作業が一昔前といわれる将来はどうなっているのだろう。それを考え、山口大学工学部感性デザイン工学科では、大学の創基200年を超える伝統の下で、建物について、機能的であること、安全であること、快適であること、感性を分かち合うことをテーマに、西日本からの学生だけでなく中部・関東からも建築を学びたいという学生とともに、研究を進めています。

手法を学ぶ
建築構造学

地震国である日本では耐震性の高い建築物を造る事が、人々の命や財産を守るためにとても大切です。今日まで過去の大地震で発生した被害を教訓として発展してきた日本の耐震技術は世界でもトップクラスですが、近い将来に起こることが危惧されている南海トラフ巨大地震をはじめとした大地震に備えるため、さらに発展させていく必要があります。建築構造学研究室では主に鉄筋コンクリート造建築物を対象として研究開発に取り組んでおり、大型加力装置を用いた構造部材の加力実験、構造解析プログラムを用いた地震時シミュレーション、地震被害の現地調査などを行っています。

建築材料学

建築材料の合理的な選択・使用は、建築物の安全性と長寿命化、さらにはカーボンニュートラルと循環型社会の実現のために非常に重要です。当研究室は、構造材料として使用量が膨大なコンクリートの設計・製造・施工・補修・再利用について先端技術の研究開発を行っています: ①環境性能の評価法と環境配慮型調合設計法; ②廃棄物を主原料とし、セメントクリンカーを使用しない低炭素コンクリート・仕上げ材; ③CO2固定/吸収コンクリート; ④流動解析に基づいたコンクリートの施工性能の評価と最適化技術; ⑤劣化したコンクリートの補修材料と工法; ⑥コンクリート内部における中・低品質再生骨材の改質による高品質コンクリートの製造技術 等。

建築施工学

「建築施工学」部門では、「建物の構造安全性向上」として、構造的に特徴のある建物の骨格をデザインする研究や、地震だけでなく飛来物による衝突に対しても安全・安心を確保する研究を進めています。また、「先端技術の設計や施工への適用」として、数学的手法やAI(人工知能)による支援によって設計図を描く方法や、VR(仮想空間)で建物を施工することにより、施工計画時に有用な情報を提供する技術についての研究も行っています。

特徴的な建物の合理的な骨格を3Dプリンターで製作(上)や鉄筋コンクリート板に飛来物が衝突する状況の数値シミュレーション(下)
VR(仮想空間)で建物を建てていくことでコストや工程表を自動作成するツール
快適性を学ぶ
建築環境工学

地球温暖化ガスの排出量削減が世界的な課題となっており、国内においても建物の省エネルギー化は最重要課題のひとつとして位置付けられています。これまでの省エネに加え「創エネルギー」を導入し、建物で消費するエネルギー量より、建物オンサイトで創るエネルギー量が多い=ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)に注目が集まっています。本研究室では、ZEBに関連する研究テーマに積極的に取り組んでいます。また、コロナウィルス感染症対策の一環として、冷暖房と窓開け換気の両立について、その運用方法や省エネルギー性能に関する研究を行っています。

住宅内の隔離部屋換気シミュレーション結果
室内温熱環境調査
建築設備工学

快適で生産性の高い環境を小さい環境負荷で作ることができる建築設備システムの研究・開発を行っています。太陽熱や地中熱などの自然エネルギーを利用した空調システム、 高効率な建築設備システムの開発などに取り組んでいます。また人間を取り巻く熱・空気環境に関する研究,特にIndoor Air Quality(室内空気質)の研究に力を入れており、 建材等から放散されるSVOC(準揮発性有機化合物)の放散挙動の解析, 新築住宅における室内空気質の調査, コロナ禍における大学講義室の最適換気法の研究などに取り組んでいます。

展開力を学ぶ
建築計画学

建築計画学分野では、少子高齢化や過疎化等の日本の社会構造の変化に対応した、地域施設や住宅等のあり方に関する教育・研究及び実践活動に取り組んでいます。特に、様々な課題を抱える現代の地方都市や中山間地域において、建築に求められる機能や役割も多様化しており、当分野では新たな計画・設計手法の検討に加え、既存建築ストックに新たな価値や役割を付与する為の方法論構築まで多岐にわたる領域を扱っています。また、各研究・活動の前段階として、詳細なフィールドワークを行い、対象となる地域や施設の特性を読み解くことで、それぞれの個性を生かした計画立案へと繋げる取り組みを実践しています。

都市計画学

都市計画学分野では、機能性、安全性、美観性に優れた快適な都市や地域をデザインする手法について研究活動を行っています。国内外の都市をフィールドとして、土地利用制度、市街地再生、景観、都市住宅、低炭素まちづくりなどのテーマに取り組み、持続可能な都市空間を実現する手法について科学的な調査、研究成果を国内外に発信しています。

センスを学ぶ
建築デザイン学

建築デザイン学分野では、地域の課題を発見し、課題解決のための提案を重視しています。そのために、出来るだけ実践プロジェクトに参加し、地域で生活する人々と協働しながら構想し、具体的な建築空間へと展開するデザインプロセスを体験します。企画構想や設計提案を行うなかで、地域の自然環境や生活文化との関係の中で建築を捉え、人間の生活に求められる建築空間を構想し、表現出来るデザイン力の養成を目標に教育・研究を行なっています。

感性情報学

感性情報学はデザイン学と画像処理領域から成ります。画像処理領域は、視覚・聴覚などの五感情報を計測し、人の視覚や聴覚の計算モデル構築し脳の活動を解明しています。さらに得られた知見をもとにコンピュータビジョンや次世代インターフェースの研究を行なっています。