第143回山口県眼科医会総会・集談会
- 日時
- 2024年06月02日(日)9:30~13:00
- 場所
- 山口県教育会館
- 一般講演
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座長:平野 晋司(山口大学)
- 「緑内障に合併した視神経乳頭周囲の網膜分離」
舩津 法彦1、湧田 真紀子1、青木 連1、東島 史明1、緒方 惟彦2、太田 真実1、山本 和隆1、平野 晋司1、相良 健3、木村 和博1
(1.山口大学、2.周東総合病院、3.さがら眼科クリニック) - 「転移性眼腫瘍の2例」
次郎丸 光、砂田 潤希、吉本 拓矢、内 翔平、寺西 慎一郎、木村 和博
(山口大学) - 「特発性視神経炎と思われたが、脊髄MRIで脊髄病変がみられた一例」
有吉 伸顕、新川 邦圭、芳野 秀晃 (徳山中央病院) - 「生物学的製剤治療中に腸管病変が新たに出現したベーチェット病難治性網膜ぶどう膜炎の一例」
近藤 由樹子1、徳田 あゆみ1、内 翔平2、木村 和博2
(1.宇部興産中央病院 2.山口大学)
- 「緑内障に合併した視神経乳頭周囲の網膜分離」
- 特別講演
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座長:木村 和博(山口大学)
『老視診療アップデート
〜診断・保存的治療から多焦点眼内レンズまで〜』
慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授 根岸 一乃 先生
新谷悠子(山口大学)
令和6年6月2日に山口県教育会館にて第143回山口県眼科医会秋季総会並びに集談会が開催されました。特別講演では慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授 根岸 一乃先生より、『老視診療アップデート〜診断・保存的治療から多焦点眼内レンズまで〜』についてご講演いただきました。
1.老視の疫学
世界の視覚障害の1位は近視であるが、2位は老視であり、先進国でさえ適切な矯正が行われてないという現状があるということをご説明頂きました。
2.老視の診断
老視の定義は加齢に伴って眼の調節力が減退した状態です。診断法・診断基準としては、疫学研究では定性的な指標として、近方視力、焦点深度曲線、コントラスト感度、読書速度などが指標として使われているとのご説明でした。特に近方視力について、0.5程度を境目にしているというのが一般的であります。しかしながら、患者さんの自覚症状として年齢では概ね45歳以降で老視を感じ、近方視力は1.0より落ちると老視の自覚があるという人が急増するということから、現状より早期の治療介入が必要なのではないかというご説明を頂きました。
3.老視の治療
①保存的治療、②薬物治療、③外科的治療があり、②の薬物治療として現在アメリカでは縮瞳剤(ピロカルピン)が2021年にFDAより承認されたとのことでした。副作用としては頭痛や嘔気等がありますが一過性であり、2023年には2回/日点眼処方が承認されたとのご説明をいただきました。③の外科的治療としては角膜治療、水晶体治療、強膜治療があげられます。角膜治療としては老視LASIK、LTK/CKなどがあげられ、水晶体治療としてはレーザー、ICN、IOL(調節と多焦点)などが挙げられ、強膜治療としてはACSがあげられるとのことでした。現段階では、この中で一番安定的に治療できるのは多焦点眼内レンズ治療とのご説明を頂きました。
老視に対する調節訓練には効果があるのか、という疑問に対して遠方と近方をみることを1回20往復繰り返すことを1日4回、2か月間にわたって行って頂くという調査が行われました。訓練によって瞳孔径が小さくなり、輻輳量が増加したことで満足度が上がった、特に若い年齢層でその傾向が強かったとのことでした。しかしながら、近方視機能には差がなかったとのご説明を頂きました。
4.緑内障と老視
老視進行の因子として、年齢、女性、糖尿病、喫煙、ドライアイ等が挙げられ、特に女性でBUT短縮のある人では進行しやすいという報告があるとのことでした。さらに、FP受容体作動薬点眼使用例では老視進行が早いとのご説明を頂きました。そこで、老視と緑内障で共通の病態があるのではないか、という研究が報告されとのことでした。老視はこれまで加齢などにより水晶体が硬化することで進行すると考えられていましたが、水晶体は毛様体で調整しており、その毛様体は脈絡膜を通じて視神経まで到達し、視神経のエラスティックリングが引っ張られる状態となっている。一方、FP受容体作動薬では作用部位がぶどう膜強膜流出路、線維柱帯、毛様体に作用しているため、FP受容体作動薬が効いている範囲は調節機能に関連している部位と一致しているとのご説明を頂きました。最近の臨床研究で、近方加入度数について年齢、緑内障点眼薬を使用していること、緑内障であることが大きく関連していることがわかったとのことでした。加齢や緑内障による毛様体筋付着部の硬直や、点眼による毛様体筋の収縮の継続が毛様体筋の機能を低下させている可能性が示唆されたとご説明頂きました。
5.老視矯正の多焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズの満足度に関わる因子としては、①術後にかすみがある、②術後の遠方視への不満がある、③術後にグレアが出る、このようなことがあると満足度が低下する、とのご説明を頂きました。
最近の多焦点レンズについては、近方の焦点深度、グレア、ハロー、スターバーストの発生頻度、若い年齢層で中間視を改善する効果などについて各レンズの比較を含めてご説明頂きました。
老視と緑内障はどちらも身近な問題でありながら、相互に関連しているという事実を知り驚きました。老視という身近な疾患について新たな知見を得ることができ大変勉強になりました。今後の診療に活かしていきたいと思います。この度はご講演頂き誠にありがとうございました。