第145回山口県眼科医会春季総会・集談会
- 日時
- 2025年06月07日(土)17:00~20:00
- 場所
- KDDI維新ホール
- 一般講演
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座長:山田 直之(山口大学)
- 「IOL振盪による続発緑内障に対し、IOL摘出+強膜内固定を行った3症例」
長谷川 豪、内 翔平、山田 貴紀、舩津 法彦、砂田 潤希、芳川 里奈、吉本 拓矢、湧田 真紀子、木村 和博
(山口大学) - 「Vogt-小柳-原田病治療中にニューモシスチス肺炎を発症した一例」
田村 佳尚、山城 知恵美
(山口県立総合医療センター) - 「当院の涙道外来についての報告」
佐久間 彩乃1、三國 雅倫1、東島 史明1、宮本 隼伍1、石田 悠子1、和才 友紀1、青木 連1、西本 綾奈1、岩本 菜奈子11、2、山田 直之1、木村 和博1
(1.山口大学、2.柴田病院) - 「ブリモニジンによる角膜炎の一例」
有吉 伸顕、緒方 惟彦、新川 邦圭、芳野 秀晃
(徳山中央病院)
- 「IOL振盪による続発緑内障に対し、IOL摘出+強膜内固定を行った3症例」
- 特別講演
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座長:木村 和博(山口大学)
『角膜疾患に対する外科的治療のパラダイムシフト』
広島大学病院眼科 診療教授 近間 泰一郎 先生
M先生
令和7年6月7日にKDDI維新ホールにて第145回山口県眼科医会春季総会並びに集談会が開催されました。特別講演では、広島大学病院眼科診療教授の近間秦一郎先生より、「角膜疾患に対する外科的治療のパラダイムシフト」にと題してご講演いただきました。
ご講演の冒頭では、角膜・結膜分野における再生医療の現状についてご教示いただきました。移植に用いられる再生医療等製品とは、ヒトまたは動物の細胞に培養等の加工を施したものであり、角膜・結膜の分野で培養上皮移植は日本が最先端を走っているとのことでした。中でも、現在保険診療として認可されている「ネピック」「オキュラル」「サクラシー」、および新たに登場した角膜内皮細胞移植注入製品「ビズノバ」について、詳しくご解説いただきました。ネピックはヒト角膜上皮細胞由来、オキュラルおよびサクラシーは口腔粘膜由来、ビズノバはヒト角膜内皮細胞由来の製品であり、いずれも高度な細胞培養技術に基づいて作製されています。これらの治療法は高額ですが保険診療下で提供されており、一生に一度のみ受けられる治療とされています。
ネピック、オキュラルは角膜上皮幹細胞が機能不全に陥ることで生じる角膜・結膜上皮障害(Limbal Stem Cell Deficiency; LSCD)に対して適応され、従来の自家移植や他家移植と比較して、低侵襲で拒絶反応が起こりにくい点が利点といえます。サクラシーはLSCDに加えて重度の瞼球癒着を伴う症例に用いられます。こちらも患者自身の粘膜由来の細胞を培養したシートを用いて行われ、従来難治とされていた重症例に対しても良好な結果が得られているとのことでした。角膜上皮移植においては各症例に応じた適切な選択と情報共有が必要であることを強調されました。さらに、iPS細胞由来の上皮細胞シートによる治療の研究にも触れられ、角膜透明性が非常に高く維持されるとのことで、今後の臨床応用への期待が高まりました。
続いて、角膜内皮疾患に対する新たな治療法として注目される「ビズノバ」についてご紹介いただきました。これは、ドナー由来の角膜内皮細胞を特殊な培養手法によって増殖させ、移植用として再利用する京都府立医科大学で開発された技術です。一つの角膜から数十人分の移植材料が得られ、また角膜内皮細胞密度は移植後最大で4000細胞/mm²に達するとのことでした。角膜内皮細胞を含む懸濁液を眼内に注入し、一定時間の体位保持によって細胞の定着を促すという比較的低侵襲な方法が取られ、従来の手術と比べて、拒絶反応や術後の視機能障害が非常に少ないという点で革新的であると感じられました。
最後に、角膜ジストロフィに関する遺伝カウンセリングや、筑波大学で開発が進められている人工知能技術「CorneAI」、さらにはアカントアメーバ角膜炎に対する光線力学療法の研究など、角膜領域における最新の知見についても幅広くご紹介いただきました。
ご講演を通じて、まさに「パラダイムシフト」と呼ぶにふさわしい角膜診療の革新的な展望を拝聴することができました。近間先生の貴重なお話を今後の診療に活かしつつ、より広い視野をもって診療に取り組んでまいりたいと存じます。このたびはご多忙の中、誠に貴重なご講演を賜り、心より御礼申し上げます。