山口大学医学部眼科山口大学大学院医学系研究科眼科学

Outline

山口県眼科医会総会・集談会Archive

2023年

第142回山口県眼科医会総会・集談会

日時
2023年11月19日(日)9:30~13:00
場所
山口県教育会館
一般講演

座長:永井 智彦(山口大学)

  1. 「眼内レンズ強膜内固定術の再手術の2症例」
    舩津 法彦、山城 知恵美、平野 晋司(山口県立総合医療センター)
  2. 「山口大学におけるユーソフトの使用実績」
    岩本 菜奈子1、柳井 亮二1、植田 喜一1,2、木村 和博1
    (1.山口大学 2.ウエダ眼科)
  3. 「画像鮮明化システム MIEr の有用性」
    宮城 秀考、石田 康仁、廣田 篤 (広田眼科)
  4. 「大角度の上斜位を呈する先天性上斜筋麻痺の1例」
    中野 朋子1、吉次 久美1、武田 知佳2
    (1.なかの眼科クリニック 2.平川眼科クリニック)
  5. 「個別化医療を見据えたバイオマーカー ―「健康寿命」の延伸化を目指して―」
    川田 礼治1、内野 英治2
    (1.川田クリニック 2.山口大学医用工学部)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『加齢黄斑変性診療アップデート』
兵庫医科大学 眼科学講座 教授 五味 文 先生

特別講演印象記

和才友紀(小郡第一総合病院)

 令和5年11月19日に山口県教育会館にて第142回山口県眼科医会秋季総会並びに集談会が開催されました。特別講演では兵庫医科大学眼科学教室 五味文先生より、「加齢黄斑変性診療アップデート」についてご講演いただきました。

加齢黄斑変性(AMD)には新生血管型AMD、萎縮型AMDの2つのタイプがあり、これまでは欧米の疾患と言われていました。しかし、高齢化社会に伴い今後は特にアジアでAMDの患者が増加するといわれており、今後は“AMDはアジアの病気”と言われる時代がくるかもしれないとのことでした。また、近年用語が変化し、”CNV”から”MNV(macular neovasculopathy)”となったとのことでした。 nAMDのベストのシナリオは

  1. ① 早期発見、早期治療
  2. ② 適切な間隔でのフォローアップと追加治療
  3. ③ 急な変化や反応不良への対応
ですが、どれもとても難しいとのことでした。

① 早期発見、早期治療について
 AMDは典型AMD(1型CNV、2型CNV)、PCV、RAPに分類されます。AMD患者の95%で歪みの自覚があるともいわれており、早期発見には患者の気づきが重要であるとのことでした。また、医師の診断力の向上も必要で、OCTやOCTAを撮像しfluidを検出すること、SHRMの有無を確認することにより、活動性のあるwAMDを抽出することが重要であるとのことでした。その活動性の把握のためには、造影検査が望ましいですが、患者さんの負担軽減のためにはOCTやOCTAを撮像することで代用することも近年では重要になってきたとのことでした。また、wAMDを病期分類することはとても重要であるとのことでした。その理由としては、治療を急ぐ症例を見極めるため、治療戦略(PDTの可能性、抗VEGF薬の固定投与)を考えるため、経過の予測(僚眼の発症、網膜下出血のリスク、萎縮のリスク)をするため、という理由が挙げられるとのことでした。
 CSCとMNVを見分けるためには、RPEの不整があるかどうか、色素上皮より病変が超えているかどうかをOCTできちんとみる必要があるとのことでした。OCTAも有用で、Bスキャンで血管があるかどうか確認すること、すべての層を確認すること、enface画像をきちんと見て中心窩以外の病巣があるか確認することが必要とのことでした。
 PCVの中でも、出血型は途中の経過中に再出血する場合があり、予後も悪く注意が必要とのことで、可能な限りポリープをなくすことが必要とのことでした。
また、RAP(type 3 MNV)だと診断した際は、患者さんの自覚症状や訴えがなくても必ず僚眼(両眼)のOCTを撮像することが重要であるとのことでした。
 AMDには治療を急ぐ病型、少し経過をみてもよい病型(自然軽快が期待できるパターン)があるとのことでした。

  • 2型MNVをもつAMDである
  • RAP・傍中心窩に病変がある
  • 出血やフィブリン(SHRM)を伴うAMD,PCV
といった症例であれば、治療を急ぐ必要があり、逆に
  • 視力良好な1型MNV
  • 網膜下液のみ、あるいはPEDのみ
といった症例であれば自然軽快が期待できるため少し経過をみてもよいとのことでした。
ただ、病型分類が難しいこともあるため、その場合は抗VEGF治療時の予後不良因子を念頭において考え、その中でも、
  • 中心窩のIRFを認める
  • 大きなSHRMを認める
  • 大きなCNVを認める
といった場合は、早めの治療開始でコントロールする必要があるとのことでした。

② 適切な間隔でのフォローアップと追加治療について
視力予後はTAEが良好であり、modified TAEのほうが過剰投与を減らすことができるとのことでした。また、少しでも良好な視力維持のためには、

  • IRFはできるだけなくすこと(SRF・PEDはそれほど厳密ではない)
  • できるだけ再発をきたさないようにすることが難しいけれどとても重要なことである
とのことでした。

③ 急な変化や反応不良への対応について
抗VEGF反応不良例と対処法については、

  • 投与間隔の短縮
  • 薬剤スイッチ、スイッチバック
  • PDT
  • 休薬すること
などをそれぞれの症例に合わせてしていく必要があるとのことでした。
また、AMD治療患者の治療自己中断率は32%であったという報告もあり、特に若年者が多いとのことでした。治療の効果や継続の必要性が感じられなかった、といった理由に関しては我々医療者側がしっかり患者さんに説明することが重要であり、また、病院滞在時間が長いといった不満に関してもできる限り減らせるよう改善していく必要があるとのことでした。
また、網膜下出血は1日で再出血することもあり非常に怖い病態であり、抗VEGF薬で治療を行っていたとしても再出血するリスクがあるとのことでした。
視力予後を考えると硝子体手術を考慮したほうがよい症例もあり、2discエリアを超える網膜下出血がある症例や、視力が0.5以下となった症例に対しては積極的に血腫除去手術をした方がいいのではないかとのことでした。

特別講演を通して、AMDの診断、治療に対してわかりやすく理解することができ、非常に勉強になりました。また、普段から撮像しているOCTの画像にはとても多くの情報が詰まっているのだと改めて感じました。先生のご講演を今後の日常診療や治療に活かし、一つ一つの症例に向きあっていきたいと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

第141回山口県眼科医会総会・集談会

日時
2023年06月04日(日)9:30~13:00
場所
山口県教育会館
一般講演

座長:寺西 慎一郎(山口大学)

  1. 「テルミサルタンによる角膜混濁が疑われた一例」
    田村 佳尚、太田 真実、山田 直之、木村 和博(山口大学)
  2. 「当院で経験した脈絡膜骨腫の1例」
    吉村 佳子1、砂田 潤希1,2、榎 美穂1、木村 和博2
    (1.小郡第一総合病院 2.山口大学)

座長:湧田 真紀子(山口大学)

  1. 「国立施設における原職復帰事例と新規就労事例について」
    山田 信也
    (国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局福岡視力障害センター)
  2. 「江戸時代の眼科医療について」
    浅山 琢也(浅山眼科)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『これからの緑内障診療』
東海大学医学部医学科専門診療学系眼科学 教授 鈴木 康之 先生

特別講演印象記

有吉伸顕(徳山中央病院)

 令和5年6月4日に山口県教育会館で第141回山口県眼科医会春季総会並びに集談会が開催されました。特別講演では東海大学医学部医学科専門診療学系眼科教授、鈴木康之先生より、「これからの緑内障診療」についてご講演いただきました。

 講演は前半と後半に分けて行われ、前半では緑内障検査において、3つの提案をいただきました。

 眼圧測定ではiCare®の重要性についてご説明いただきました。iCare®は数秒で測定ができ、局所麻酔が不要で、機種によっては下向きでの測定もできる眼圧測定機器です。ゴールドマンアプラネーショントノメーターやノンコンタクトトノメーターと違って接触部分は使い捨てであり、涙の飛散がないことから非常に清潔に使用できる利点があり、また、眼瞼の挙上の必要がないためプロスタグランジン製剤によるDUESを高度に認める症例でも変わらず眼圧を測定できることをご紹介いただきました。

 続いて、OCTの緑内障診療への利用についてご説明いただきました。OCTでは乳頭周囲網膜神経線維層厚や、黄斑部における網膜神経節細胞複合体厚、網膜神経節細胞層+内網状層厚の測定ができます。視力・視野と異なり、客観的なデータが取れることが利点ですが、再現性はあまり良くなく、画像のクオリティや近視などによって結果が変わるため、他の検査と組み合わせて緑内障の有無や進行を判断したほうが良いことをご教示いただきました。

 視野検査機器のimo®についてご紹介いただきました。現在緑内障診療における視野検査は固視の維持が必要で、測定時間が長いことから集中力がなかなか続かないこともみられます。患者さんとしても測定時間が長く、頻繁に測定することから、負担に感じる場合が多いとご説明いただきました。imo®はこれまでと同様の視野検査を短い時間で行うことができることをご紹介いただきました。また、自動瞳孔トラッキング機能があるため固視が不良であっても測定が可能であり、さらに反対眼を遮蔽せずに検査できるため、将来、低負担で密な診療ができる可能性をご教示いただきました。

 後半では緑内障治療について3つの提案をいただきました。

 現在の緑内障治療は点眼治療が主で、全身的な副作用をあまり考慮しなくてよいのが利点です。その反面、点眼を正確に行うのは容易ではなく、特にご高齢の患者さんが座位で点眼を行った場合、正確に点眼できている方は半数に満たないことをご教示いただきました。また、ラベルが見分けにくく、防腐剤によって角膜障害が生じる可能性もあり、眼瞼に接触して不潔になることもご説明いただきました。ユニットドーズ点眼は使い切りであるため清潔であり、防腐剤も入っていないことから角膜障害が生じずアドヒアランスの向上につながるとご教示いただきました。

 また、点眼のアドヒアランスが良くない患者さんや点眼そのものが患者さんへの負担になっていることから、点眼薬が多剤になる前に選択的レーザー線維柱帯形成術や低侵襲緑内障手術について検討する必要についてご教示いただきました。

 緑内障の手術ではプリザーフロ®マイクロシャントをご紹介いただきました。生体適合性に優れるスチレンーイソブチレンースチレントリブロック重合体でできており、一定のろ過量を期待できます。実際の手術動画をご提示いただき、適応や術後の注意点、眼圧の経過もご教示いただきました。

 特別講演を拝聴して緑内障診療の最先端に触れることができました。この度は貴重なご講演、誠にありがとうございました。

2022年

第140回山口県眼科医会総会・集談会

日時
2022年11月20日(日)9:30~13:00
場所
山口県教育会館
一般講演

座長:山田 直之(山口大学)

  1. 「視神経周囲の病変を認め両眼の視神経症を併発したIgG4関連眼疾患の一例」
    濱田 和花1,名和田 隆司2,竹本 洋介3,堀 健志3,湧田 真紀子1,木村 和博1
    (1.山口大学眼科 2.山口大学膠原病内科 3.山口大学耳鼻咽喉科)
  2. 「外科的治療で回復した鼻性視神経症の一症例」 
    能美 なな実,布 佳久,白石 理江(下関医療センター)

座長:榎 美穂(小郡第一総合病院)

  1. 「中枢神経Germinoma及び高ナトリウム血症により両眼の視力低下を来した一症例」
    原口 愛子,山本 和隆(周東総合病院)
  2. 「2022年山口県ロービジョンケアネットワーク活動報告 ~ロービジョンフォーラム in下関を開催して~」
    舩津 法彦1,福村 美帆2,3,中野 郁代2,3,河野 清美2,4,有吉 伸顕1,長谷川 実茄1,2,佐藤 洋一1,2, 本田 孝文2,5,湧田 真紀子1,2,木村 和博1,2,大西 徹2,6
    (1.山口大学眼科 2.山口県ロービジョンケアネットワーク 3.福村眼科 4.下関市民病院眼科 5.ロービジョン研究会アナミ 6.大西眼科)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『緑内障点眼薬と眼表面』
和歌山県立医科大学医学部眼科学講座  教授  雑賀 司珠也 先生

特別講演印象記

有吉 伸顕

令和4年11月20日に山口県教育会館で第140回山口県眼科医会秋季集談会が開催されました。特別講演では和歌山県立医科大学眼科学教授の雑賀司珠也先生より、「緑内障点眼薬と眼表面」についてご講演いただきました。

1. 点眼薬と防腐剤

点眼薬には成分の安定と感染予防の観点から、塩化ベンザルコニウム(以下BAC)をはじめとしたさまざまな防腐剤が使用されています。緑内障点眼薬の防腐剤の種類と濃度を一覧にされ、点眼薬ごとに異なっていることを確認することができました。タフルプロスト点眼による角膜上皮障害がBACフリーのタフルプロストに切り替えた後に改善した症例をご紹介いただき、BACは角膜上皮障害の原因となる場合があることをご説明いただきました。

2.プロスタグランジン製剤(以下PG製剤)

緑内障患者における眼表面疾患の有病率は高率であり、点眼薬の種類が多いほど有病率が上昇することをご説明いただきました。PG製剤による角膜上皮細胞の遊走障害はBAC濃度が高いほど進行するものであり、1日4回以上の過剰な点眼により高度の幹細胞疲弊症を発症した症例をご紹介いただきました。また、オミデネパグイソプロピル点眼薬はBACがPG製剤より高濃度でありながら、PG製剤から切り替えた際に点状角膜症が改善傾向だったという結果があり、PG製剤の角膜上皮障害はBACだけでなく主剤そのものも関与している可能性があるとご教示いただきました。

3. 配合点眼薬

緑内障治療では単剤での眼圧下降が十分でない場合、複数の点眼成分が必要となる場合があるが、複数の点眼薬を使用するよりは配合点眼薬にすることで防腐剤の量が減って角膜上皮障害を生じにくいとご説明いただきました。また、PG製剤とβ遮断薬のチモロールの配合点眼薬は角膜知覚鈍麻や涙液分泌の低下を生じて上皮障害をきたす可能性が高く、チモロールではなくカルテオロールの配合点眼薬であるミケルナは上皮障害を生じにくいとご教示いただきました。

4. ヒアルロン酸Na

ドライアイ治療薬であるヒアルロン酸NaはBACフリー製剤であり、緑内障点眼薬による上皮障害にも効果があるとご説明いただきました。しかし、高濃度の0.3%ヒアルロン酸Naを緑内障点眼薬と同時に使うとBACが眼表面に長時間滞留する可能性が考えられ、実験では上皮障害が増悪する結果が得られたとのことでした。海外での実験では数時間の間隔を空けて緑内障点眼薬と0.3%ヒアルロン酸Naを使用した際には上皮障害は改善したとの報告もあるため、同時に点眼するのではなく5分より長い間隔で点眼する必要性についてご教示いただきました。

特別講演を拝聴して、緑内障点眼薬と防腐剤による角膜上皮障害への影響、診察のポイントや治療方法を学ぶことができました。今後の診療に役立てたいと考えます。この度は貴重なご講演、誠にありがとうございました。

第139回山口県眼科医会総会・集談会

日時
2022年06月05日(日)9:30~13:00
場所
山口県教育会館
一般講演

座長:布 佳久(下関医療センター)

  1. 「感染性角膜炎の再発症例の検討」
    和才 友紀1,岩本 菜奈子1,永井 智彦1,守田 裕希子2,山田 直之1,木村 和博1
    (1.山口大学 2.小幡眼科)
  2. 「腎性貧血治療薬による眼合併症」 
    有吉 伸顕1,湧田 真紀子2,東島 史明1,長谷川 実茄1,緒方 惟彦1,太田 真実1
    小林 由佳1,木村 和博1
    (1.山口大学 2.山口大学臨床研究センター)

座長:柳井 亮二(山口大学)

  1. 「診断に苦慮したうっ血乳頭の一例」
    三國 雅倫1,芳野 秀晃1,西本 綾奈1,吉田 悠真1,安部 真彰2,松尾 欣哉2,石田 康仁3
    (1.徳山中央病院眼科 2.徳山中央病院脳神経内科 3.広田眼科)
  2. 「MP-70を使用した眼内レンズ縫着術の検討」
    徳田 あゆみ1,近藤 由樹子1,木村 和博2
    (1.宇部興産中央病院 2.山口大学)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『眼疾患と生体リズム』
奈良県立医科大学眼科学講座 教授 緒方 奈保子 先生

特別講演印象記

原口 愛子

令和4年6月5日に山口県教育会館で第139回山口県眼科医会春季総会並びに集談会が開催されました。特別講演では奈良県立医科大学眼科学講座教授の緒方奈保子先生より、「眼疾患と生体リズム」についてご講演いただきました。

1. 目と生体リズム

見るだけにとどまらない目の働きとして、動物は光を感じることで生体リズムを調節しているということについてご教授いただきました。我々は、視細胞だけでなく、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)でも光を感受しており、このipRGCはブルーライトを感受することで、メラトニンを介してサーカディアンリズムを調節しているとご説明いただきました。メラトニン分泌は年齢とともに減少するため、高齢者で睡眠障害が多く認められるとのことです。

2.緑内障と生体リズム

緑内障では、ipRGCも障害されることが示唆されていることご説明いただきました。奈良県立医科大学眼科学講座で緑内障が生体リズムへ与える影響について研究されたLIGHT studyでは、メラトニン代謝産物濃度は緑内障群で優位に低下しており、緑内障重症群では更に低下していることが明らかになったとのことです。このことが、緑内障患者における生体リズム障害を生じており、緑内障患者の夜間高血圧につながっているとご説明いただきました。夜間高血圧は、血管リスクイベントにおいて日中血圧よりも予後予測能が高いとされ、Non-dipper(夜間血圧非下降例)の割合は、コントロール群と比較して緑内障群で約2倍多くなっているとのことです。これが、緑内障患者で死亡リスクが高いことの一因になっているとお話しいただきました。眼を守ることが命を救うことに繋がると学び、身が引き締まる思いがいたしました。

3. 白内障と生体リズム

奈良県立医科大学疫学予防医学講座が主催され、緒方先生の講座も眼科分野で参加された大規模疫学研究の平城京スタディでは、元気な高齢者は視力が良いとの結果が出ており、視力不良群では、認知症リスクが2-3倍増加することが明らかになったとのことです。認知症は不可逆的な変化であり、白内障手術により認知症を改善させることはできませんが、軽度認知機能低下(MCI)の段階で白内障手術を施行することは、認知症への移行の予防に寄与するとご説明いただきました。高齢化が進む現代において認知症は社会的にも関心の高い問題であり、白内障手術による認知症予防については眼科医の私達から、社会に広めていく必要があると感じました。
続いて、白内障による水晶体の混濁では、赤色光はあまり影響を受けませんが、ブルーライトは網膜まで到達しにくくなり、サーカディアンリズムが狂うことに繋がるとお話しいただきました。これにより、白内障患者では生理的な夜間血圧の下降が減少するため、動脈硬化リスクが上昇し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが増加するとのことです。また、白内障手術により、メラトニン分泌が増加することも明らかになったとご説明いただきました。メラトニン増加により、白内障術後には睡眠効率上昇や中途覚醒時間の短縮が認められたとお話しいただきました。ただし、UVだけでなくブルーライトも遮断するイエローレンズ使用例では、メラトニンの増加は認められなかったとのことです。

特別講演を通して、生体リズムにおける眼の働きについて理解が深まり、大変勉強になりました。眼科医は眼を診ることでQOVだけでなくQOL、更には命を守る存在であると学びました。先生のご講演を今後の診療に活かし、広い視点を持って診療に当たりたいと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

2021年

第138回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2021年11月21日(日)9:30~13:00
場所
山口市教育会館
一般講演

座長:芳野 秀晃(徳山中央病院)

  1. 「免疫関連副作用による乳頭炎型Vogt-小柳-原田病様症候群と考えられた一例」
    竹中 優嘉,湧田 真紀子,太田 真実,緒方 惟彦,小林 由佳,波多野 誠,山内 一彦,木村 和博
    (1.山口大学 2.山口赤十字病院)
  2. 「眼部帯状疱疹の治癒後に球後視神経炎を生じた一例」
    山城 知恵美,平野 晋司(山口県立総合医療センター)

座長:山本 和隆(周東総合病院)

  1. 「感染性角膜炎カレンダーの作成」
    山田 直之,岩本 菜奈子,青木 連1,2,永井 智彦,守田 裕希子1,3,木村 和博1
    (1.山口大学 2.周東総合病院 3.小幡眼科)
  2. 「カラーコンタクトを装用し皮膚シミ取りレーザーを受け角膜混濁を生じた一症例」
    石村 良嗣(下関市立市民病院)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『緑内障眼の前房隅角の診断と治療介入』
大分大学医学部眼科学講座 教授 久保田 敏昭 先生

特別講演印象記

青木 連

第138回山口県眼科医会総会・集談会が、令和3年11月21日に山口市の山口県教育会館で開催されました。特別講演では、大分大学医学部眼科学講座教授の久保田敏昭先生に、「緑内障眼の前房隅角の診断と治療介入」と題してご講演いただきました。

始めに、隅角の解剖および発達について、わかりやすい隅角写真や組織写真等を用いてご教示いただきました。隅角に対する知識を深めることができ、また、隅角の発達を理解することで隅角形成不全の理解を深めることができるという気付きも得ることができました。

次に、隅角の診断についてお話しいただきました。まず、静的隅角鏡検査、動的隅角鏡検査、圧迫隅角鏡検査を用いた診断手順についてお示しいただきました。隅角診断においては、開放隅角か閉塞隅角かの判断を要しますが、隅角検査では強膜岬の観察の可否、前眼部OCTでは強膜岬でのiridotrabecular contactの有無に着目していくことが重要だと分かりました。

続いて、緑内障の病型別に組織学的特徴やその治療介入についてご教示いただきました。

原発開放隅角緑内障の線維柱帯変化の特徴として、線維柱帯の細胞数の減少、線維柱帯の菲薄化、シュレム管の内径の狭小化が報告されています。

血管新生緑内障では、組織像でSchlemm管内に赤血球が見られ、新生血管が線維柱帯に侵入していることが確認されます。治療としては、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)を標的とした抗VEGF治療が用いられます。抗VEGF療法により、虹彩・隅角新生血管の消退、眼圧下降、閉塞隅角期への進行抑制、緑内障手術時の術中・術後合併症の減少といった効果が期待されます。同時に網膜虚血改善を目的として、汎網膜光凝固術の施行も必要です。中間透光体の混濁がある場合には、白内障や硝子体手術を施行し、汎網膜光凝固術を完成させます。高眼圧を来している症例には、緑内障治療薬の併用も必要となります。

落屑緑内障は、落屑症候群に伴う疾患で、Zinn小帯脆弱性や散瞳不良を認め、落屑物質が房水流出路に沈着することで眼圧上昇を来すとされています。落屑症候群では、血管内皮細胞および虹彩色素上皮細胞、虹彩の筋組織等の組織変性に起因して、様々な症候が引き起こされるとのことでした。なかでも落屑症候群における水晶体嚢の組織像では、水晶体前嚢の層間剥離が見られ、これが日常臨床でよく目にする水晶体前面の灰白色落屑物質だというお話は印象的でした。さらに、落屑症候群はLOXL1をはじめ、POMP、CACNA1A 、TMEM136、AGPAT1、RBMS3、SEMA6Aといった7つの原因遺伝子がこれまで解明されており、加えて近年CYP39A1変異が落屑症候群および落屑緑内障の発症に関与していることが同定されたとのことでした。

サイトメガロウイルス虹彩炎は、続発緑内障の一つであり、前房中のTGF-βが上昇することで、線維柱帯における細胞外マトリックスが増加し眼圧上昇をきたします。サイトメガロウイルス虹彩炎においては、産生酵素オートタキシンが房水流出抵抗に関連し、眼圧上昇と相関することが報告されているとのことでした。

最後に、緑内障手術治療についてお話しいただきました。

白内障手術と線維柱帯切除術の同時手術は、線維柱帯切除術単独より眼圧下降率は悪く、また、線維柱帯切除術単独手術後に白内障手術を行った症例は、術後眼圧上昇は認められなかったとのことでした。以上のことから、手術を要する程度まで白内障が進行していない場合は、線維柱帯切除術は単独で施行したほうが良い可能性があるとのご意見でした。

また、選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty;SLT)は、点眼治療と比較した研究において、白内障および緑内障手術を必要とした症例が少なく、点眼治療より費用対効果に優れているということが昨今報告されています。今後SLTや低侵襲緑内障手術が点眼治療に先行してくる可能性もあるとのことでした。

今回のご講演では、緑内障眼における前房隅角診断のポイントならびに、治療介入や緑内障治療の今後の展望についてお聞きすることができました。特に落屑症候群については、これまで学習できていなかった基礎的な病態に始まり、原因遺伝子のお話まで、非常に学びが多く興味深い内容ばかりでした。今回得た知識を臨床に活用しつつ、今後も更に知識を深めていこうと思いました。久保田先生、大変貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。

第137回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2021年05月30日(日)10:00~12:00
場所
Zoom Webinar ライブ配信
一般講演

座長:平野 晋司(山口県立総合医療センター)

  1. 「加齢黄斑変性に対するレスキューPDTの有効性に関与する因子の検討」
    太田 真実1,湧田 真紀子1,能美 なな実1,2,緒方 惟彦1,波多野 誠1,柳井 亮二1,木村 和博1
    (1.山口大学,2.下関医療センター)
  2. 「急激な視野異常を呈した白血病性視神経症の一例」
    宮嵜 智景1,山城 知恵美1,2,小林 正明1,永井 智彦1,白石 理江3,徳久 佳代子1,寺西 慎一郎1,木村 和博1
    (1.山口大学,2.山口県立総合医療センター,3.下関医療センター)
  3. 「当院におけるレンティスコンフォート®の使用状況と成績」
    砂田 潤希1,東島 史明2,横峯 弘隆1,吉村 佳子1,榎 美穂1
    (1.小郡第一総合病院,2.山口大学)
  4. 「Cartridge pull-through techniqueを用いた低侵襲眼内レンズ摘出術」
    廣田 篤1,石田 康仁1,森田 真一2,福岡 佐知子3
    (1.広田眼科,2.あおば眼科,3.国分寺さくら眼科)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『ちょっとした知識と工夫が必要な角結膜疾患』
東京歯科大学眼科 教授 島﨑 潤 先生

2020年

第136回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2020年12月06日(日)9:30~12:00
場所
翠山荘
記念講演

第16回山口県眼科医会賞受賞記念講演

『網膜色素上皮細胞におけるネクローシスによる血管内皮増殖因子の分泌に関する研究』
山口大学大学院医学系研究科眼科学 助教 波多野 誠 先生

特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『乳頭ピット黄斑症と類縁疾患』
杏林大学医学部眼科 主任教授 平形 明人 先生

特別講演印象記

三國 雅倫

令和2年12月6日に山口市湯田にある翠山荘にて第136回山口県眼科医会秋季総会が開催されました。特別講演に杏林大学医学部眼科学教室主任教授の平形明人先生をオンラインにてお招きし、「乳頭ピット黄斑症と類縁疾患」というテーマでご講演頂きました。先生が経験された症例を交えて、診断、病態、治療のポイントについてOCTや眼底写真、手術動画を交えて分かりやすくご教示頂きました。私自身はまだ乳頭ピット黄斑症に対しての診療経験がなく、平形先生のご講演を聞き、大変勉強になりました。

はじめに診断と病態について、黄斑部に網膜剥離、網膜分離をきたす乳頭ピット黄斑症の類縁疾患には、乳頭コロボーマ、先天網膜分離症、緑内障、近視性牽引性網膜症、硝子体黄斑牽引症候群、朝顔症候群、乳頭周囲ぶどう腫についてご説明頂きました。

次に治療について、症例提示を交えてご説明頂きました。小児の乳頭ピット黄斑症については網膜剥離が自然復位する症例も多く、手術合併症のリスクもあることから、すぐに治療介入を開始するのではなくまずは経過観察をすることが必要とのことでした。完全な自然復位までは1年程度かかることもあるということで、治療を焦らない姿勢が大切なのだと学びました。ただし、黄斑部まで剥離が起こった場合には黄斑部の変性、萎縮をきたして視力が出なくなることもあるため、硝子体手術が必要になるとのことでした。また、後部硝子体剥離後に自然に復位する症例があることが昔から知られており、他疾患を合併していない場合の初回手術では、内境界膜剥離を併用せずに後部硝子体剥離を起こすのみで終えることが多く、難症例ではピット内に内境界膜を翻転させることで改善を得られる場合もあることをご教授いただきました。

講演を通して、普段の外来診療でなかなか出会う頻度の少ない乳頭ピット黄斑症とその類縁疾患について、平形先生が実際に経験された症例を使っての説明は非常に分かりやすくとても勉強になりました。先生の講演を今後の診療に生かしていきたいと思います。この度はご講演頂き誠にありがとうございました。

第135回 山口県眼科医会総会・集談会

コロナウイルス感染拡大防止のため中止いたしました

2019年

第132回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2019年11月18日(月)9:00~15:00
場所
翠山荘
一般講演

座長:湧田 真紀子(宇部興産中央病院)

  1. 「ヘッドマウントディスプレイ型視野計の使用経験-他機種との比較-」
    鈴木 克佳(鈴木眼科)
  2. 「血管新生緑内障に対する抗VEGF療法」
    寺西 慎一郎,永井 智彦,佐久間 彩乃,播磨 希,白石 理江,徳久 佳代子,木村 和博
    (山口大学)
  3. 「介護老人保健施設入所者の視機能について」
    大藤 圭子(柴田病院)

座長:守田 裕希子(山口大学)

  1. 「TS-1による涙道閉塞に対して施行した経結膜涙嚢鼻腔吻合術」
    東島 史明,吉村 佳子,榎 美穂,西本 綾奈1,2,柿崎 裕彦
    (1. 小郡第一総合病院,2. 山口大学,3. 愛知医科大学)
  2. 「糖尿病動物モデルにおけるフィブロネクチン部分ペプチドPHSRN点眼の角膜上皮欠損治癒促進効果」
    植村 愛子,守田 裕希子,長谷川 実茄,太田 真実,山田 直之,木村 和博(山口大学)
  3. 「長期間,診断・治療に苦慮した結膜炎の二例」
    藤津 揚一朗(ふじつ眼科)

座長:新井 栄華(長門総合病院)

  1. 「角膜混濁を伴う網膜剥離に対するPKPと硝子体の同時手術」
    吉本 拓矢,冨永 和花,西本 綾奈,芳川 里奈,守田 裕希子,山田 直之,柳井 亮二,木村 和博(山口大学)
  2. 「硝子体出血を伴う網膜下出血の2症例」
    芳川 里奈,平野 晋司(山口県立総合医療センター)
  3. 「急激な視機能障害を訴えた星状硝子体症の一例」
    熊谷 直樹(くまがい眼科)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『網膜剥離について』
鹿児島大学医学部眼科学教室 教授 坂本 泰二 先生

特別講演印象記

冨永 和花

2018年11月18日、第132回山口県眼科医会秋季総会が山口市の翠山荘にて行われました。特別講演は鹿児島大学医学部眼科学教室教授の坂本泰二先生に『網膜剝離について~基礎医学実験から考える網膜保護と硝子体手術~』というテーマでご講演いただきました。前半は網膜剝離の生理学と坂本先生の研究について、後半は網膜剥離の硝子体手術におけるsoft shell techniqueについてお話して頂きました。日常診療で網膜剝離の診断、治療に関わることはありますが、基礎医学の視点から網膜剝離について考える機会がなかったこともあり、今回のご講演は大変興味深い内容でした。

網膜剥離は現在でも社会的失明の原因疾患となっています。網膜剥離の発症後,約12時間から視細胞のアポトーシスがはじまります。時間経過とともに死細胞数は増加するため術後の視機能が低下します。網膜剝離の初回復位率は90%以上ですが、半数以上は黄斑剝離の状態で受診されており,発症後3日以上経過すると6割以上の方で矯正視力0.5以上は得られないのが現状です。また、硝子体手術は進歩を遂げていますが、鹿児島大学のデータによると網膜剝離後の復位率は90%前後と20年前と著変なく、ケルン大学のデータでも網膜剝離術後の増殖硝子体網膜症への移行率は約2%と著変なく、網膜剝離はいまだに克服されたとは言い難い疾患のひとつです。そのため、病態解明のために現在も活発に研究がなされています。

視細胞死には、アポトーシス、ネクローシス、オートファジー等があります。アポトーシスについては各国の研究によりメカニズムが解明されつつあり,制御できる可能性が示唆されています。一方、ネクローシスは細胞死により細胞内の有害物質が細胞外へ放出されることで,周辺の組織により強い炎症や細胞障害を引き起こすという特徴があり、ネクローシスの制御が今後の課題として挙げられます。

ネクローシスに至ると細胞からDAMPs(Damage associated molecular pattern molecules)の一部であるHMGB1が放出され、DAMPsの受容体を介して細胞障害が拡大します。このプロセスを制御することが細胞障害の抑制に繋がる可能性があると考えられます。そこで、坂本先生はDAMPsのうち、ヒストンに着目し研究をされました。

ヒストンは黄斑前膜や糖尿病網膜症,増殖硝子体網膜症に比べ,網膜剝離眼で有意に上昇しており、網膜内へ移行したヒストンは炎症を引き起こします。さらにヒストンにより細胞死をも誘導することが示唆されたため,抗ヒストン抗体を投与すると視細胞層の菲薄化が抑制されました。また、硝子体のヒアルロン酸成分はヒストンと凝集塊を形成することで、ヒストンの傷害性を減弱する作用があることも判明しました。

次に白内障手術におけるsoft shell techniqueについて、実際の症例の手術動画もお示し頂きながら解説していただきました。白内障手術では、隅角に障害が及ぶと本来核内に局在するはずのヒストンが核外へ放出されます。soft shell techniqueで術中に使用するヒアルロン酸がヒストンによる炎症を減じ、角膜内皮細胞への障害も抑制していることが示唆されました。

硝子体手術におけるsoft shell techniqueでは、網膜裂孔に粘弾性物質を留置することで網膜下へのパーフルオロンカーボンの流出を予防するテクニックを紹介いただきました。さらに、細胞破砕によるヒストンを介した網膜の二次障害をヒアルロン酸が予防する可能性があることからsoft shell techniqueは有効と考えられます。

今回の特別講演を拝聴して,網膜剝離による細胞障害の生物学・研究について初めて学ぶことができました。研究テーマとその実験結果を研究の順序に沿って、鮮明な画像とともに分かりやすくお話頂き、坂本先生の研究テーマに対するアプローチの流れを体感することができました。このように網膜剝離についての基礎医学研究から、実際の症例を通して実臨床への応用まで多岐にわたる内容で、網膜剝離の病態の奥深さを感じるとともに理解が深まりました。本特別講演で学んだことを明日からの日常臨床のなかでも生かしていきたいと思います。坂本泰二先生、このたびはご講演頂きまして誠に有り難うございました。

第134回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2019年11月17日(日)9:00~15:00
場所
翠山荘
一般講演

座長:新井 栄華(長門総合病院)

  1. 「上皮基底膜ジストロフィとFuchs角膜内皮ジストロフィを合併したうえに円錐角膜も疑われた一例」
    砂田 潤希1,太田 真実1,山田 直之1,岡山 直子2,中原 由紀子2,山﨑 隆弘2,木村 和博1
    (1.山口大学,2. 山口大学医学部附属病院検査部)
  2. 「当院で治療したリウマチ性角膜周辺部潰瘍の2症例」
    冨永 和花,山本 和隆(周東総合病院)
  3. 「眼サルコイドーシス疑いで長期治療されていた仮面症候群の一例」
    緒方 惟彦1,内 翔平2,波多野 誠1,柳井 亮二1,木村 和博1
    (1. 山口大学,2. 山口県立総合医療センター)
  4. 「眼皮膚白子症に糖尿病網膜症を合併した1症例」
    徳田 あゆみ,近藤 由樹子,湧田 真紀子(宇部興産中央病院)

座長:榎 美穂(小郡第一総合病院)

  1. 「虹彩実質性嚢腫を伴った小児緑内障から眼球癆に至った一例」
    小林 正明1,寺西 慎一郎1,東島 史明1,2, 永井 智彦1,白石 理江1,守田 裕希子1,徳久 佳代子1,3,山田 直之1,木村 和博1
    (1. 山口大学,2. 小郡第一総合病院,3. 山陽小野田市民病院)
  2. 「視覚障がいに関する市町村アンケート集計結果からみた山口県内の現状」
    長谷川 実茄1,福村 美帆2,3,湧田 真紀子2,3,4,芳川 里奈2,4,佐藤 洋一2,3,河野 清美2,能美 なな実1,布 佳久1
    (1. 下関医療センター,2. やまぐちロービジョン勉強会,3. 山口大学,4. 宇部興産中央病院)
  3. 「ロービジョン対応ホームページとスクリーンリーダー」
    新川 邦圭(新南陽市民病院)
  4. 「電子カルテ・レセコンメーカーを変更してみて」
    髙橋 典久(よしき眼科クリニック)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『黄斑上膜 -診断と治療- 』
藤田医科大学医学部眼科学教室 主任教授 堀口 正之 先生

特別講演印象記

砂田 潤希

第134回山口県眼科医会秋季総会の特別講演で、藤田医科大学眼科学教室教授の堀口正之先生に「黄斑上膜‐診断と治療‐」というテーマでご講演頂きました。先生が経験された症例を交えて、疫学、分類、検査、治療についてわかりやすくご説明頂きました。

疫学においては、63歳から102歳を対象としたOCTによる調査では34.1%という高い確率で黄斑上膜を伴っていたこと、分類としてGassらの分類(Grade0:セロハン様の黄斑前膜があり、かつ歪みがない、Grade1:セロハン様の黄斑上膜があり、かつ歪みがあるもの、Grade2:眼底にしっかりとした白い膜が確認できるもの)があること、視機能の評価として、視力低下・変視症・大視症の3つが重要であることをご教示頂きました。common diseaseとしての黄斑上膜の罹患率の多さを再認識しました。驚くべきことは、黄斑上膜の3主症状はそれぞれ相関しないということでした。各症状の詳細な問診や視力検査、アムスラーチャート、Mチャート検査、New Aniseikonia Testなどの定量的検査の重要性を感じました。ちなみに、New Aniseikonia Testとは、赤緑眼鏡をかけてそれぞれ半円を見てもらい、片方を徐々に小さくし同じ大きさになる値を調べる検査です。不等同視が5~7%が限界といわれているため、それ以上の値が出た場合に症状が強いと捉えます。山口大学では施行されていない検査であり、勉強になりました。

治療においては、症例提示を交えてご説明頂きました。黄斑上膜を有する患者の場合、視力検査表に用いる輝度を低くして初めて視力低下を検出できることがあり、患者さんの訴えに対し視力検査表の輝度まで調べられた先生の積極的な姿勢に大変感銘を受けました。黄斑上膜に対する硝子体切除術に関しては、上記の視機能評価で手術適応が決定されます。変視症や大視症がある症例で、視力が良好な場合には手術決定が困難となりますが、堀口先生は積極的に手術を行っており、良好な効果が得られているとのことでした。また、手術治療の合併症について、術中の眼内照明による光障害に対して3D顕微鏡を使用することで光量が36.7%まで抑えられたこと、術後の黄斑浮腫に対してはNSAIDs点眼を用いることで予防効果が期待できることをご教示頂きました。

講演を通して、外来で遭遇する頻度の高い黄斑上膜について、堀口先生が実際に経験された症例を使っての説明は非常に分かりやすくとても勉強になりました。また、実際の症例から得られた疑問点に対して真摯に向き合い、問題解決していく姿勢に感銘を受けました。先生の講演を今後の診療に活かしていきたいと思います。この度はご講演頂き誠にありがとうございました。

第133回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2019年05月26日(日)9:00~15:00
場所
翠山荘
一般講演

座長:布 佳久(下関医療センター)

  1. 「下関市立豊田中央病院通院中の90歳以上の緑内障患者調査」
    岩本 菜奈子(下関市立豊田中央病院)
  2. 「ブリンゾラミド懸濁性点眼液によりStevens-Johnson症候群と中毒性表皮壊死症を生じた一例」
    村田 晃彦1,佐久間 綾乃1,緒方 惟彦1,芳野 秀晃1,竹本 朱美2,三好 由華2,圓島 瞳美2,中野 純二2,櫻井 拓真3,川戸 達也3,村木 祐孝3,山下 進4
    (1.徳山中央病院眼科,2.皮膚科,3.歯科口腔外科,4.救命救急センター・救急科)
  3. 「山口大学医学部附属病院における線維柱帯切開術の術後管理」
    寺西 慎一郎1,永井 智彦1,小林 正明1,白石 理江1,徳久 佳代子1,2,木村 和博1
    (1.山口大学,2.山陽小野田市民病院)

座長:山本 和隆(周東総合病院)

  1. 「遷延性角膜上皮欠損に対するフィブロネクチン由来部分ペプチドPHSRN点眼治療の有効性の検討」
    守田 裕希子,山田 直之,木村 和博(山口大学)
  2. 「ぶどう膜炎の疫学と診断基準について」
    柳井 亮二1,内 翔平1,2,緒方 惟彦1,木村 和博1
    (1.山口大学,2.山口県立総合医療センター)
  3. 「『2018 ロービジョン勉強会in山口』アンケートから見えてきたこと」
    島袋 勝弥,河野 清美,孔井 正広,横峯 弘隆,佐藤 洋一,芳川 里奈,品川 竜典,湧田 真紀子,新川 邦圭,福村 美帆(やまぐちロービジョン勉強会)

座長:山田 直之(山口大学)

  1. 「当院における白内障手術時の水掛け手技向上の取り組み」
    近本 信彦(近本眼科)
  2. 「当院での翼状片切除術後の疼痛コントロールの工夫」
    川本 晃司(かわもと眼科)
  3. 「EBM (RCT) 神話の終焉そして,その先へ―特定健診と眼底健(検)査―」
    川田 礼治1,岡見 祐樹2,向田 真志保2,内野 英治2
    (1.川田クリニック,2.山口大学大学院創成科学研究科)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『結果にコミットする。白内障手術』
筑波大学医学医療系 眼科 教授 大鹿 哲郎 先生

特別講演印象記

芳川 里奈

令和元年5月26日、翠山荘で第133回山口県眼科医会春季総会ならびに集談会が開催され、特別講演に筑波大学医学医療系 眼科教授 大鹿哲朗先生に「結果にコミットする。白内障手術」をテーマにご講演いただきました。大きく分けて①IOLの話題についてと、②白内障を正しく診断するについてお話しいただきました。

IOLについてはまず新しく販売された低加入度数IOLの特徴や多焦点レンズとの違い、大鹿先生の患者さんでの経験をご呈示いただきました。低加入度数IOLは採用する病院が徐々に増えている段階のため、まだ山口県では実施件数も少なく実際の症例を見る機会は少ない状況です。そんな中、低加入度数IOL挿入のコツなどについても教えていただき、今後自分で使用する際の参考になりました。またIOL裏面の洗浄についても、データを示しながら、術後の合併症リスクを減らすためにしっかりと行う必要があるとお話しいただきました。手術後半の手技であり、症例によっては施行困難の場合もありますが、一つ一つをきちんと行う必要があると改めて感じました。

続いて白内障の正しい診断についてお話しいただきました。白内障の分類は細かく、診察時のコツや見るべきポイントがそれぞれ異なっており、また所見での見つけやすさや見た目の混濁の程度と、患者さんの見え方は必ずしも一致しないことをお話いただきました。私自身あまり遭遇したことはないのですが、混濁が強いように見えるのに視機能に異常なく経過観察可能な胎生核混濁がある両眼の先天白内障や、半分以上の症例で視力低下を引き起こすが徹照法で診察しなければ確認困難なRetrodotsなどについて、実際の症例の写真とともにご呈示いただきました。今後、自身の外来で出会った際に、様々な診察方法で多角的に白内障を評価しなければと、改めて考えさせられました。また術後の後発白内障に関しても、最も一般的な後嚢が混濁するものだけでなく、液状後発白内障など特殊な状況で視力低下を起こす症例についても解説していただきました。なかなか出会うことが少ない症例のため、きちんと患者さんの訴えを聞きながら処置を考えなければいけないなと感じました。

最後にtake home messageとして「白内障。偽水晶体眼はありふれた病態だが、正しい診断と治療方針立案を」とのお言葉をいただきました。眼科においてとても身近な白内障という疾患について、ただ診察するだけでは今後の細かな患者さんのニーズに対応できないなと改めて気づかされました。今後、身近な疾患であるからこそしっかりと評価できるよう、本日の講演を参考に診療していきたいと思います。

2018年

第131回 山口県眼科医会総会・集談会

日時
2018年05月20日(日)9:00~15:00
場所
翠山荘
一般講演

座長:平野 晋司(山口県立総合医療センター)

  1. 「マイクロフックを用いたトラベクロトミー内眼法の成績」
    播磨 希,寺西 慎一郎,長谷川 実茄,永井 智彦,徳久 佳代子1,2,鈴木 克佳1,3,木村 和博
    (1.山口大学,2.山陽小野田市民病院,3.鈴木眼科)
  2. 「緑内障性視野障害の進行評価におけるセグメント回帰分析の応用」
    鈴木 克佳1,2,山口県緑内障視野研究会
    (1.鈴木眼科,2.山口県緑内障視野研究会)
  3. 「IgA腎症に伴って網膜色素上皮障害をきたした1例」
    佐久間 彩乃,野田 健,緒方 惟彦,吉本 拓矢,湧田 真紀子4,折田 朋子,柳井 亮二,木村 和博
    (1.山口大学,2.徳山中央病院,3.周東総合病院,4.宇部興産中央病院)

座長:山田 直之(山口大学)

  1. 「急性内斜視の2症例」
    川本 晃司,甲斐 友喜(かわもと眼科)
  2. 「角膜に穿孔した釣り針の摘出経験」
    吉本 拓矢,山本 和隆(周東総合病院)
  3. 「山口大学ロービジョン外来の一年目の現状」
    福村 美帆1,3,河野 清美,佐藤 洋一,冨永 和花,湧田 真紀子3,4,木村 和博
    (1.下関医療センター,2.下関市立市民病院,3.山口大学,4.宇部興産中央病院)

座長:榎 美穂(小郡第一総合病院)

  1. 「山陽小野田市民病院における眼科診療と山口大学との連携」
    徳久 佳代子(山陽小野田市民病院)
  2. 「無虹彩症に水疱性角膜症を併発した症例に対して全層角膜移植術が有用であった一例」
    西本 綾奈,冨永 和花,吉本 拓矢,守田 裕希子,山田 直之,木村 和博
    (1.山口大学,2.周東総合病院)
  3. 「バックフローハイドロでの安全性の検討」
    廣田 篤,安田 佳守臣,森田 真一,岡本 史樹,星 崇仁,村上 智哉,大鹿 
    哲郎
    (1.広田眼科,2.小金井さくら眼科,3.多根記念病院,4.筑波大学)
特別講演

座長:木村 和博(山口大学)

『強度近視の眼底合併症と治療』
名古屋大学大学院医学系研究科眼科学 教授 寺﨑 浩子 先生

特別講演印象記

佐久間 彩乃

第131回山口県眼科医会春季集談会が平成30年5月20日に山口市の翠山荘にて開催されました。特別講演として、名古屋大学大学院医学系研究科眼科学教授の寺崎浩子先生に「強度近視の眼底合併症と治療」というテーマでご講演いただきました。

まず、OCT angiographyについて、実際の症例を提示していただきながらお話しいただきました。OCT angiographyとは、造影剤を使用することなく網膜および脈絡膜の血管を詳細に描出することができ、造影検査では不可能であった網膜の層別解析が可能な機械です。原理としては、流れのあるところを血管として描出し、Segmentationに基づいて面の画像を作成、各ピクセルに選択部位の輝度を表示させます。血管は3次元に分布しており、OCT angiographyではSuperficial(表層):ILM-IPL、Deep(深層):INL-OPL、Avascular(視細胞層):ONLといったように、任意の層に指標を合わせることができます。例えば、糖尿病網膜症の新生血管を検出する場合、新生血管は内境界膜よりも硝子体側へ存在するため、Vitreo-Retinal Interfaceモードを選択します。適切な層を選択することによって新生血管がより明瞭に描出されます。

新生血管のある層と、網膜表層を手動で選択し、引き算すると新生血管のコントラストを高めます。OCT angiographyの欠点にはプロジェクションアーチファクトにより網膜表層にある血管が影として映ってしまうことや造影検査より新生血管のサイズ(面積)が小さく描出されることがあります。また、血管のネットワークは非常によく描出されますが、ポリープはわかりにくいことも欠点として挙がります。

OCT angiographyは近視性脈絡膜新生血管の診断や治療に役立ちます。高度近視では網膜色素上皮やブルッフ膜に亀裂を生じ、網膜出血を生じる事があり、さらにVEGFの産生により脈絡膜新生血管が発生します。OCTで新生血管様の構造を認めた症例では、造影検査で新生血管が疑われた症例に対しては、OCT angiographyを施行し、新生血管が検出された場合は抗VEGF注射を施行し、検出されない場合は強度近視に伴う単純出血と診断し、治療を要しません。このように、OCT angiographyは強度近視の眼底に見られる脈絡膜新生血管と単純出血との鑑別に有用と考えられます。

強度近視では黄斑牽引症、黄斑円孔網膜剥離、非黄斑円孔網膜剥離がみられ、治療では内境界膜剥離を併施する硝子体切除術により、網膜分離を修復し網膜形状を回復します。1984年に三宅養三先生(名古屋大学元教授)が空気注入術および腹臥位安静による治療法を報告され、2007年に安藤先生が黄斑バックルを報告されています。また、強度近視に伴う脈絡膜新生血管に視神経乳頭の部分以外の網膜全体を剥離して黄斑を移動させる全周切開黄斑移動術が施行され、症例によっては良好な治療予後が観察されていました。

近視性牽引性黄斑変性症では硝子体方向へ視細胞層が牽引されることに加え、眼球容積の巨大化によって錐体密度が疎となり、黄斑円孔網膜剥離が発生します。手術治療の視力予後は不良で、黄斑円孔や網膜剥離の発生時期は不明なため、早期手術が推奨されます。視力予後は術前の病期に依存し、前網膜剥離状態の方が良好とされており、術前にOCT検査の重要性が示唆されます。治療においては内境界膜剥離翻転を併施した硝子体切除術を行いますが、近年、自己網膜移植術も報告されています。網膜切除部に視野狭窄が生じ、移植網膜の生着後の神経接続については不明です。

以上の内容をご講演いただきました。OCT angiographyには上記のようにいくつかの欠点がありますが、診断にとても有用な機械ということがわかりました。造影検査をせずに、より侵襲の少ないOCT angiographyのみで診断ができる日が来るのでしょうか。現時点では各検査を組み合わせて、診断や治療を進めていくことが大事であると思いました。強度近視の患者を診察することも多く、今後の診療に役立てていきたいと思いました。ご講演いただきました寺崎浩子先生、ありがとうございました。