第142回山口県眼科医会総会・集談会
- 日時
- 2023年11月19日(日)9:30~13:00
- 場所
- 山口県教育会館
- 一般講演
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座長:永井 智彦(山口大学)
- 「眼内レンズ強膜内固定術の再手術の2症例」
舩津 法彦、山城 知恵美、平野 晋司(山口県立総合医療センター) - 「山口大学におけるユーソフトⓇの使用実績」
岩本 菜奈子1、柳井 亮二1、植田 喜一1,2、木村 和博1
(1.山口大学 2.ウエダ眼科) - 「画像鮮明化システム MIEr の有用性」
宮城 秀考、石田 康仁、廣田 篤 (広田眼科) - 「大角度の上斜位を呈する先天性上斜筋麻痺の1例」
中野 朋子1、吉次 久美1、武田 知佳2
(1.なかの眼科クリニック 2.平川眼科クリニック) - 「個別化医療を見据えたバイオマーカー ―「健康寿命」の延伸化を目指して―」
川田 礼治1、内野 英治2
(1.川田クリニック 2.山口大学医用工学部)
- 「眼内レンズ強膜内固定術の再手術の2症例」
- 特別講演
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座長:木村 和博(山口大学)
『加齢黄斑変性診療アップデート』
兵庫医科大学 眼科学講座 教授 五味 文 先生
和才友紀(小郡第一総合病院)
令和5年11月19日に山口県教育会館にて第142回山口県眼科医会秋季総会並びに集談会が開催されました。特別講演では兵庫医科大学眼科学教室 五味文先生より、「加齢黄斑変性診療アップデート」についてご講演いただきました。
加齢黄斑変性(AMD)には新生血管型AMD、萎縮型AMDの2つのタイプがあり、これまでは欧米の疾患と言われていました。しかし、高齢化社会に伴い今後は特にアジアでAMDの患者が増加するといわれており、今後は“AMDはアジアの病気”と言われる時代がくるかもしれないとのことでした。また、近年用語が変化し、”CNV”から”MNV(macular neovasculopathy)”となったとのことでした。 nAMDのベストのシナリオは
- ① 早期発見、早期治療
- ② 適切な間隔でのフォローアップと追加治療
- ③ 急な変化や反応不良への対応
① 早期発見、早期治療について
AMDは典型AMD(1型CNV、2型CNV)、PCV、RAPに分類されます。AMD患者の95%で歪みの自覚があるともいわれており、早期発見には患者の気づきが重要であるとのことでした。また、医師の診断力の向上も必要で、OCTやOCTAを撮像しfluidを検出すること、SHRMの有無を確認することにより、活動性のあるwAMDを抽出することが重要であるとのことでした。その活動性の把握のためには、造影検査が望ましいですが、患者さんの負担軽減のためにはOCTやOCTAを撮像することで代用することも近年では重要になってきたとのことでした。また、wAMDを病期分類することはとても重要であるとのことでした。その理由としては、治療を急ぐ症例を見極めるため、治療戦略(PDTの可能性、抗VEGF薬の固定投与)を考えるため、経過の予測(僚眼の発症、網膜下出血のリスク、萎縮のリスク)をするため、という理由が挙げられるとのことでした。
CSCとMNVを見分けるためには、RPEの不整があるかどうか、色素上皮より病変が超えているかどうかをOCTできちんとみる必要があるとのことでした。OCTAも有用で、Bスキャンで血管があるかどうか確認すること、すべての層を確認すること、enface画像をきちんと見て中心窩以外の病巣があるか確認することが必要とのことでした。
PCVの中でも、出血型は途中の経過中に再出血する場合があり、予後も悪く注意が必要とのことで、可能な限りポリープをなくすことが必要とのことでした。
また、RAP(type 3 MNV)だと診断した際は、患者さんの自覚症状や訴えがなくても必ず僚眼(両眼)のOCTを撮像することが重要であるとのことでした。
AMDには治療を急ぐ病型、少し経過をみてもよい病型(自然軽快が期待できるパターン)があるとのことでした。
- 2型MNVをもつAMDである
- RAP・傍中心窩に病変がある
- 出血やフィブリン(SHRM)を伴うAMD,PCV
- 視力良好な1型MNV
- 網膜下液のみ、あるいはPEDのみ
ただ、病型分類が難しいこともあるため、その場合は抗VEGF治療時の予後不良因子を念頭において考え、その中でも、
- 中心窩のIRFを認める
- 大きなSHRMを認める
- 大きなCNVを認める
② 適切な間隔でのフォローアップと追加治療について
視力予後はTAEが良好であり、modified TAEのほうが過剰投与を減らすことができるとのことでした。また、少しでも良好な視力維持のためには、
- IRFはできるだけなくすこと(SRF・PEDはそれほど厳密ではない)
- できるだけ再発をきたさないようにすることが難しいけれどとても重要なことである
③ 急な変化や反応不良への対応について
抗VEGF反応不良例と対処法については、
- 投与間隔の短縮
- 薬剤スイッチ、スイッチバック
- PDT
- 休薬すること
また、AMD治療患者の治療自己中断率は32%であったという報告もあり、特に若年者が多いとのことでした。治療の効果や継続の必要性が感じられなかった、といった理由に関しては我々医療者側がしっかり患者さんに説明することが重要であり、また、病院滞在時間が長いといった不満に関してもできる限り減らせるよう改善していく必要があるとのことでした。
また、網膜下出血は1日で再出血することもあり非常に怖い病態であり、抗VEGF薬で治療を行っていたとしても再出血するリスクがあるとのことでした。
視力予後を考えると硝子体手術を考慮したほうがよい症例もあり、2discエリアを超える網膜下出血がある症例や、視力が0.5以下となった症例に対しては積極的に血腫除去手術をした方がいいのではないかとのことでした。
特別講演を通して、AMDの診断、治療に対してわかりやすく理解することができ、非常に勉強になりました。また、普段から撮像しているOCTの画像にはとても多くの情報が詰まっているのだと改めて感じました。先生のご講演を今後の日常診療や治療に活かし、一つ一つの症例に向きあっていきたいと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。