第42回 やまぐち眼科フォーラム
- 日時
- 2025年01月18日(土)18:00~20:00
- 場所
- かめ福オンプレイス
- 詳細
- PDFはこちら
- 特別講演1
-
座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生
『これからのドライアイ:Back to the future』
大阪大学大学院医学系研究科 視覚先端医学 寄附講座 准教授 高 静花 先生 - 特別講演2
-
座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生
『緑内障点眼アドヒアランス維持の工夫』
島根大学医学部眼科学講座 教授 谷戸 正樹 先生
J先生
第42回やまぐち眼科フォーラムの特別講演では、大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学寄附講座准教授の高静花先生より「これからのドライアイ:Back to the future」と題してご講演いただきました。
まずは素敵なピアニカの演奏とともにドライアイの歴史を振り返りました。その後、TFOD (Tear Film Oriented Diagnosis)、TFOT (Tear Film Oriented Therapy)について今一度説明していただきました。フルオレセイン染色の3原則や、角膜上皮障害に先行する結膜上皮障害をブルーフリーフィルターを通してしっかり確認する意義について学びました。また、基本である涙液の5つのBreakupパターンの診かたを動画や解説を通してご説明頂き、分かりやすく整理することが出来ました。重症型では開瞼直後から涙液の状態が破綻していることは重要なポイントだと感じました。
次に、ドライアイで生じる視機能や検査所見への影響についてお話いただきました。プラチド型の角膜形状解析は涙液の影響を受けやすいこと、高次収差、コントラスト、前方散乱にも影響があることを学びました。特に、ドライアイの中でも瞳孔中心のSPK(superficial punctate keratopathy, 点状表層角膜症)がコントラストに強く影響を与えること、また、前方散乱はSPKと関係なく涙液層の破綻に影響を受けることを教えて頂きました。
治療については、ある程度の涙液量が確保できていない眼ではヒアルロン酸点眼が害になり得ることは気をつけなければならないと感じました。そして、初回治療では点眼薬は単剤から開始するのが良く、自覚症状の聴取も含めて、上皮または涙液のどちらに焦点を当てて治療するのかで、点眼の選択が可能になることを学びました。他にも海外で使用されているドライアイ治療薬についての知見も得ることが出来ました。
最後に、ドライアイ治療は長期継続がなかなかに難しく、途中で眼科受診が途絶える患者が多く、治療の長期成績の論文があまりないとのことでした。自験例をもとに、5年、10年の長期成績をまとめたものを供覧していただきました。角膜上皮障害、自覚症状が年々改善し、特にシェーグレン症候群の方々は結膜上皮障害の改善を顕著に認めており、継続治療の重要性を学びました。また、19年間涙点プラグが脱落せずに挿入され続けていた珍しい症例も知ることが出来ました。講演の終わりには再びピアニカの演奏を楽しませていただき、今後の外来診療の一助となる時間を過ごすことが出来ました。この度はご講演頂きまして誠にありがとうございました。
F先生
2025年1月18日(土)にかめ福オンプレイスにて第42回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演2では島根大学医学部眼科学講座 教授 谷戸正樹先生より、「緑内障点眼アドヒアランス維持の工夫」についてご講演いただきました。
原発開放隅角緑内障の発症の危険因子として、高眼圧(70%が眼圧正常範囲)、近視、高年齢(最多)があり、診断には、視力(自覚)、眼圧(他覚)、眼底(他覚)、視野(自覚)が要り、眼圧下降治療には、点眼(能動)、レーザー(受動)、手術(受動)があります。認知機能と緑内障との関連性については、Mini-Cog©という検査法を用いた研究成果についてお話頂きました。Mini-Cog©とは、言葉の記憶力:0-3点、時計描画:0または2点、合計0-5点の簡易的な認知機能検査で、合計2点以下がスクリーニング陽性とされ、MMSE(Mini-Mental State Examination,ミニメンタルステート検査)とほぼ同等の検査と言われています。Mini-Cog©を受けた緑内障患者746人のうち、8%がMini-Cog©スコアが2点以下で、緑内障患者の12-13人に1人が認知機能低下の疑いという結果でした。
緑内障に対する眼圧下降治療は点眼薬による薬物治療が最も多くの患者に行われるため、点眼手技の巧拙等により必要処方量の個人差が大きいと予想され、実際の処方量差の算出を行ったところ、緑内障患者の処方量差は1か月あたり1.4±1.7本(2.4倍)という結果でした。処方量差を生む正の因子には高齢者、遠視側の屈折、多剤併用が、負の因子には単回製剤のみが挙げられました。単剤でも多剤でも高齢者では処方量差は大きくなっており、その原因として、高齢者は点眼手技が拙劣のため数滴点眼することや、医療費の自己負担割合が低いため薬剤費の負担感が少ないこと、点眼時は老眼鏡を使用できないため老眼により点眼瓶が見えづらいことが原因と考えられました。
さらに、点眼手技のビデオ撮影、アンケート回答、第3者による録画判定を行った研究結果についてもご教示頂きました。第3者判定における点眼失敗理由として、複数滴下が18人(60%)、点眼ボトルの先端の接触が15人(50%)、眼に入らずが17%(19眼/112眼)でした。第3者判定では54%が点眼できておらず、57%が第3者判定と自己評価が不一致という結果で、患者さんに聞いても点眼の上手い、下手は分からないことを示しており、点眼の不成功因子として高齢、認知機能低下、遠視、中心窩閾値低値がありました。
点眼指導の2大要素に知識と手技がありますが、実際に点眼指導を受けたことがある患者は28.3%と少数でした。そこで、①点眼確認、②点眼指導、③記録を行ったところ、座位での点眼が困難な患者が多いことが分かりました。特に、PAP(プロスタグランジン関連眼周囲症)が強い患者では、眼を十分に開けることが難しくなるため、仰臥位での点眼が有効であるとのことでした。さらに、SU-PAP(プロスタグランジン関連眼周囲症分類)グレードが高い場合、トラベクレクトミー後の濾過胞の生存率は悪く、アーメド緑内障バルブ挿入術後の濾過胞の生存率は良く、PAPが強い場合はトラベクレクトミーよりもアーメド緑内障バルブの方が術後成績が良いとのことでした。また手の震えによる点眼困難の方には、げんこつ法による点眼、点眼回数が多い方には点眼びんの持ち方の工夫があり、点眼指導を繰り返すことが重要で、点眼手技不適切患者には指導を5回程度繰り返すことが必要とのことでした。講師が使用されている点眼問診ツールには知識編、点眼手技編があり、診察の待ち時間に知識と手技の確認を行うことができるとご紹介がありました。ご家族や介助者の方へ点眼依頼をする際には、処方数を減らすこと、また合剤の使用、必要性の低い点眼の処方を避けることが重要で、処方数や回数減による効果でアドヒアランスは改善するとのことでした。眼科医はアドヒアランスを意識した処方を心掛け、副作用(アレルギー、角膜上皮障害など)が出た場合は点眼中止や手術などの対応をとることが重要とのことでした。
点眼治療の継続が困難となる因子には患者側と医師側があり、患者側には意欲低下、点眼の困難さ、身体機能低下、認知機能低下、副作用や効果を実感できない、時間・経済的負担等があり、医師側には説明不足、過剰処方、クリニカルイナーシャ(臨床的怠惰)があります。
最後に、緑内障治療継続のカギとして、①患者の状態を考慮:年齢、身体機能、認知機能、②点眼手技・知識の指導体制:高齢者、認知機能低下、遠視、中心窩閾値低下、点眼本数が多い・少ない、18mmHgを超える眼圧、③シンプルな処方:少ない点眼本数、出来れば2剤まで、カルテ記載の工夫(両×1(朝)、右×2(朝・夕))、④アドヒアランスに依存しない治療:レーザー、観血手術がある、と本日の講演を振り返りながらご教示頂きました。
本講演では、緑内障点眼アドヒアランス維持の工夫について多くの自験例を交えながらご講演いただきました。今回学んだ知識を今後の実臨床に生かしていきたいと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。