第40回 やまぐち眼科フォーラム
- 日時
- 2024年01月27日(土)17:00~19:00
- 場所
- KAMEFUKU ON PLACE
- 詳細
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- 特別講演1
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座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生
『マイボーム腺疾患の診断と治療のエッセンス』
京都市立病院 眼科部長 / 京都府立医科大学
眼科臨床教授 鈴木 智 先生 - 特別講演2
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座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生
『臨床に役立つもの作り(研究開発)へのとりくみと魅力』
佐賀大学医学部眼科学講座 教授 江内田 寛 先生
M先生(山口大学眼科)
令和6年1月27日にKAMEFUKU ON PLACEにて第40回やまぐち眼科フォーラム並びに山口県眼科医会臨時総会が開催されました。特別講演1では京都市立病院眼科 部長・京都府立医科大学眼科 臨床教授 鈴木 智先生より、「マイボーム腺疾患の診断と治療のエッセンス」についてご講演いただきました。
細隙灯顕微鏡検査では初めからスリット光で観察を始めるのではなく、まずは弱拡大、拡散光で観察を始め、眼瞼に触れずに眼瞼下垂の有無や、マイボーム腺の開口部の状態、血管拡張の程度を観察することが重要とご教示頂きました。
前部眼瞼炎は睫毛根部を中心とした炎症で、睫毛根部のカラレットを認めるブドウ球菌性が代表です。後部眼瞼炎はマイボーム腺開口部周囲の炎症で、眼表面上皮障害と関連している場合をマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-related keratoconjunctivitis:MRKC)と呼びます。MRKCの中には角膜に点状表層角膜症superficial punctate keratopathy (SPK)を伴う非フリクテン型があり、SPKはドライアイとしての治療ではなくマイボーム腺炎を治療しなければ良くならないとのことでした。CNSやアクネ菌、黄色ブドウ球菌はマイバムの脂質(特にコレステロールエステル)を分解するリパーゼを産生し、マイバムが分解されて細胞毒性を持つ遊離脂肪酸が増加するために角膜にSPKが生じ、球結膜にはSPKはみられないとのことでした。そのため細菌数が減ればマイバムのコレステロールエステルが分解されにくくなるため遊離脂肪酸が減少し、SPKを改善できます。若年者の非フリクテン型MRKCでは抗生剤のみでSPKを消退できる場合が多いですが、高齢者の場合は抗生剤治療後にSPKが残る場合、ドライアイの治療を追加する必要があるとのことでした。治療の具体例としてテトラサイクリン系抗生剤は細菌のもつリパーゼ活性を低下させる効果をもつため、ミノサイクリン内服での治療後、SPKの残存がある場合にはレバミピド点眼で治療するなど、2ステップでの治療が有効とご教示頂きました。
MRKCのフリクテン型ではマイボーム腺炎に対応する位置の角膜に炎症細胞浸潤や、血管侵入を伴い、小児や若い女性に多く、程度の差はあれども両眼性が多く、霰粒腫の既往があることが多いです。全身的な抗生剤内服治療が効くとのことで、治療の具体例としてはクラリスロマイシン内服、セフメノキシム点眼、0.1%フルオロメトロン点眼で改善した6歳男児の症例等をお示しいただきました。
マイバムの分泌量に関して、閉経前は女性<男性ですが閉経後は女性=男性となります。女性は月経周期により一過性のマイバム分泌量の増加が引き起こされ、それを繰り返すうちにMGDを引き起こす可能性があるとのことでした。
眼表面のマイクロバイオームは若年者ではアクネ菌が多い一方で、高齢者ではアクネ菌は減少し、コリネバクテリウムやナイセリアが増加して多様性が低下
してくるとのことで、抗生剤選択に活かしたいと思いました。
MGDには分泌減少型と分泌増加型があり、分泌減少型はびまん性のマイボーム腺開口部閉塞所見を認め、マイバムの粘稠性や排出低下が起こります。分泌減少型MGDのマイバムには融点が約70℃のステアリン酸が多く含まれており、マイバムの融解温度が上昇しています。分泌増加型のMGDでは融点が約13℃のオレイン酸が増加しています。分泌減少型MGDの非炎症型では蒸発亢進性ドライアイを認めるため、ドライアイへの点眼治療に加えて温罨法が効果的であるとご教示頂きました。
後半では霰粒腫についてご講演頂きました。霰粒腫はマイボーム腺のうっ滞による慢性炎症性肉芽腫です。女性ホルモンがマイボーム腺開口部の閉塞、マイバムのうっ滞を引き起こすため40代までは女性に多く、40代以降では性差はないとのことでした。うっ滞したマイバムが異物反応を起こして巨細胞を含む肉芽組織を形成しますが、アクネ菌がマイバムの質的変化を起こすことが病態に関与するため、切開搔爬も効果がありますが、アクネ菌を減らすことも重要とご教示頂きました。
全体を通して、マイボーム腺疾患をどのように診断し、治療に繋げていくかについて大変わかりやすくご講演頂きました。マイボーム腺疾患は日常診療で出会う機会が非常に多く、それだけ困っておられる患者さんも多いと感じています。今回学んだ知識を生かして、より質の高い医療を提供していきたいと思いました。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。
T先生(山口大学眼科)
令和6年1月27日に湯田温泉にあるKAMEFUKU ON PLACEで第40回山口眼科フォーラムが開催されました。特別講演②では佐賀大学医学部眼科学講座教授の江内田寛先生より、「臨床に役立つものづくり(研究開発)へのとりくみと魅力」についてご講演いただきました。
はじめに今までの研究についてお話いただきました。トリアムシノロンが硝子体を可視化することから、ブリリアントブルーG(BBG)の開発にたどり着いたそうです。BBGは現在世界91か国で使用されており、白内障手術・硝子体手術で使用されている薬剤です。また内境界膜(ILM)剥離用のILM鉗子の開発も行われたとのことでした。眼底酸素飽和度測定装置の開発も検討し、酸化ヘモグロビンの波長、還元ヘモグロビンの波長に合わせて画像を2枚撮影し、それらからデータ抽出を通して眼底の酸素飽和度を表す装置を開発していたそうです。しかし時代が光干渉断層計(OCT)へ移っていたため、実用化には至らなかったとのことでした。
そのためOCTを生かせる研究について考えてこられたそうです。OCTアンギオは造影剤を使用せずに血管の走行や無灌流領域などを判断できる装置として活躍しています。VISTA(variable interscan time analysis)という血管構造だけではなく、血管の血流速度を測定する方法について研究を行っているとのお話でした。通常のOCTは、人が文章をよむときのように左から右といった形式を繰り返すように画像を読み込んでいきますが、これでは通常のOCTと比較してデータが多く必要な場合は読み込む量が多く、その分微小な眼球運動などによる画像の不鮮明化が起きやすいとされていました。しかしアンモナイトのようにらせん状に中心から徐々に外周にかけてスキャンしていく方法を採用することで、微小な眼球運動による位置ずれを補正することができたとのことでした。また処理速度などの上昇を目指して研究を続けられているそうです。そのほかにも臨床に応用できる研究に取り組んでおられるとのことでした。
最後に研究に携わるうえでの大事な点についてお話しいただきました。①何もやらなければ、何も生まれないこと、②わかっていても新鮮な思いつきが重要であること、③経験による発想の阻害があることを理解すること、④単純かつ安価なものであること、⑤1人ではできないこと、の5つを教えていただきました。日常診療の中から研究にかかわるテーマを常に気にかけている姿勢が大事なのだと感じました。
臨床に生かす研究を続けてこられている先生からのお話はとても有意義でした。この度は貴重なご講演を誠にありがとうございました。