第43回 やまぐち眼科フォーラム
- 日時
- 2025年07月24日(木)18:00~20:00
- 場所
- KDDI維新ホール 2階「201A/B/C」
- 詳細
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- 特別講演1
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座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生
「疫学研究から探る緑内障のリスク因子に関する知見」
慶応義塾大学医学部眼科学 助教 羽入田 明子 先生 - 特別講演2
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座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生
「糖尿病網膜症の治療戦略:硝子体手術と網膜光凝固の役割を再考する」
秋田大学大学院医学系研究科 眼科学講座 教授 岩瀬 剛 先生
H先生
令和7年7月24日にKDDI維新ホールにて第43回やまぐち眼科フォーラムが開催され、慶應義塾大学医学部眼科学助教の羽入田明子先生より「疫学研究から探る緑内障のリスク因子に関する知見」と題してご講演いただきました。
羽入田先生の研究グループでは国立がん研究センターや大阪大学、茨城大学と共同で長野県佐久地域・茨城県筑西地域において多目的コホート研究を行われているとのことでした。そうした自らの研究成果や国内外の大規模疫学研究から得られた緑内障のリスク因子に関する最新の疫学的知見に加え、日々の臨床で活用できる緑内障予防を目指したセルフケアに関する情報を数多く教えていただきました。講演の中で述べられていたリスク因子の中でもライフスタイルに根ざしたものをいくつかご紹介させていただこうと思います。
まず、喫煙や睡眠時無呼吸症候群は緑内障と関連し、高血圧も緑内障のリスク因子とされています。その理由としては毛細血管の圧が上昇し、房水産生が増加することや上強膜静脈圧上昇による房水排出低下が考えられるとのことでした。さらに、アルコール摂取と網膜厚には負の関連があり、純アルコール量は週に50g程度が限度とのことでした。エタノールには落屑物質の形成に関与する代謝経路を阻害する可能性が考えられるといった背景があるそうです。
今回の講演では最新のリスク因子を数多く学ぶことができました。私は4月から7月にかけて緑内障外来で研修をしており、その間に患者さんから緑内障のリスク因子を尋ねられることが何度かありました。今回の講演で得られた新しい知識やエビデンスを加えることで、より最新かつ多角的な情報を提供できると感じています。学んだ内容を再度確認し、今後の診療に役立てていきたいと思います。
I先生
第43回やまぐち眼科フォーラムの特別講演2では、秋田大学大学院医学系研究科 眼科学講座教授の岩瀬剛先生より「糖尿病網膜症の治療戦略:硝子体手術を網膜光凝固の役割を再考する」と題してご講演いただきました。
まず最初に、糖尿病網膜症の概要と病態についてお話頂きました。糖尿病患者の約3分の1が糖尿病網膜症を有し、そのうち糖尿病黄斑浮腫(DME)と増殖糖尿病網膜症(PDR)はそれぞれ7%に認められます。高血圧を起点に血管内皮障害が起こり、網膜虚血からVEGFが産生され、血管透過性亢進や新生血管を引き起こすという糖尿病網膜症の病態について学びました。
次に、糖尿病黄斑浮腫(DME)の治療についてご教授頂きました。中心窩を含むびまん性DMEには抗VEGF薬が第一選択となります。硝子体手術については、硝子体黄斑牽引を伴うDMEに対して有効ですが、手術後も残存・再燃するDMEに対しては抗VEGF薬が有効な場合があります。また、一部の抗VEGF薬抵抗性の嚢胞様黄斑浮腫に対しては、嚢胞内のフィブリンを除去する手術が有効な場合があります。
三つ目に、増殖糖尿病網膜症(PDR)に対する硝子体手術について、症例の画像を交えながらわかりやすく教えていただきました。術前処置と手術手技では、術中出血を減らし手術時間を短縮するため、術前5~10日前の抗VEGF薬投与が推奨されます。基本手技としては、スモールゲージ硝子体カッターを用いて増殖膜をsegmentationし、除去します。硬固な膜にはバイマニュアルで対応し、網膜裂孔を伴う場合は接線方向に剥離して裂孔拡大を防ぎます。止血については、活動性の高い膜からの出血には、カッターによる吸引と灌流による圧迫を同時に行うバイマニュアルが有効です。合併症と対策として、術後硝子体出血は周辺部の硝子体郭清が不十分な場合に生じやすく、追加の網膜光凝固が必要になることがあります。血管新生緑内障は最も重篤な合併症であり、予防には周辺部まで徹底した硝子体郭清と十分な網膜光凝固が極めて重要です。発症した場合は、抗VEGF薬投与や追加手術(追加郭清、光凝固、線維柱帯切除術)を組み合わせます。
また、血流動態評価と治療の影響についてもお話頂きました。レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用いた解析により、臨床的に安定してみえるPDR患者でも、健常眼に比べ血流が著しく低下していることが示されています。これは血管壁の肥厚と内腔の狭窄が原因です。糖尿病網膜症の病期が上がるほど、血管壁は肥厚し、内腔は狭くなり、血流低下につながります。そのため、WLR(血管壁/内径比)は病期と共に上昇します。網膜光凝固(PRP)は網膜の酸素需要を減らす治療ですが、施行後は網膜・脈絡膜血流が健常眼の約7割まで低下します。脈絡膜組織は、手術後1週間は一過性の炎症が起き肥厚しますが、その後菲薄化します。
本講演では、日常診療で頻繁に遭遇する糖尿病網膜症について多くの症例や手術動画を交えながらわかりやすくご講演いただきました。病態をよく理解し、術中に起こりうる合併症などを想定し、それに対する様々な治療戦略を日頃から備えておくことの大切さを学びました。今回学んだ知識を今後の実臨床に活かしていきたいと思います。この度はご講演いただきまして誠にありがとうございました。