第41回 やまぐち眼科フォーラム
- 日時
- 2024年07月25日(木)18:00~20:00
- 場所
- KDDI維新ホール
- 詳細
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- 特別講演1
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座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生
『オキュラーサーフェス疾患アップデート2024』
東邦大学医療センター大森病院 眼科 教授 堀 裕一 先生 - 特別講演2
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座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生
『あらゆる眼腫瘍を駆逐する!』
北海道大学大学院医学研究院眼科学教室
診療准教授 加瀬 諭 先生
W先生(山口大学眼科)
令和6年7月25日に山口県KDDI維新ホールにて第41回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演1では東邦大学医療センター大森病院眼科教授の堀裕一先生より、「オキュラーサーフェス疾患アップデート2024」という演題でご講演いただきました。
1. マイボーム腺の異常が関連する角結膜疾患 について
マイボーム腺の分泌形式は“全分泌“というもので、細胞膜の破裂によって内容物が分泌されるような分泌の仕方をしている。マイボーム腺開口部には皮膚と粘膜の境界(粘膜皮膚移行部muco-cutaneous junction)があり、フルオレセイン染色などを用いることで境界が見える。マイボーム腺開口部は皮膚側にあるのが正常であり、粘膜側に移行するのがMGDの患者さんの特徴である。MGDの定義は「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり、慢性の眼不快感を伴う」とされており、”MGD=ドライアイ“というわけではなく、MGDのみで流涙を訴える人もいる、とのことでした。
<MGDの診断において大事なポイント>
- マイボーム腺開口部の閉塞所見がある
- マイボーム腺開口部周囲の血管拡張がある
- マイボーム腺開口部周囲の異常(眼瞼縁不整)
- 粘膜皮膚移行部の前方または後方移動(フルオレセイン染色でみる)
- セルフマネージメント:
- 眼瞼縁の清拭(綿棒、アイシャンプーなど)、温罨法(アイマスク)
- 薬物・サプリメント治療:
- サプリメント(オメガ3内服)、処方薬(ステロイド点眼、抗菌薬点眼・内服(アジスロマイシン、テトラサイクリン、ミノサイクリン))
- 眼科で行う処置:
- 油脂の蓄積の予防(鑷子を使って脂質を圧出する)、デバイスを使った新しい治療(IPL; Intense Pulsed Light※,現在は自由診療)など
2. アトピー性皮膚炎患者に生じる角結膜疾患 について
アトピー角結膜炎(AKC)
<治療>
- 第一選択は抗アレルギー点眼
- 効果不十分な場合は、ステロイド薬や免疫抑制点眼薬(タクロリムス点眼など)を併用する
- 同時にアトピー眼瞼炎の治療も積極的に行う
- ステロイド内服薬を処方する場合は、内科や皮膚科の専門医と連携する
- 重症アトピー性皮膚炎の治療には、抗体製剤:デュピルマブ(注射)などの使用が行われることもある(ただ、結膜炎併発のリスクがある)
そのため、原因不明の結膜炎をみた場合は、アトピー性皮膚炎でデュピルマブなどの注射を行ってないか問診することも大事であるとのことでした。
春季カタル(VKC)
<治療>
- 第一選択は抗アレルギー点眼
- 効果不十分の場合、次に加えるのは免疫抑制剤
- 追加で悪化時のみ短期間でステロイド点眼を加えることもある
- 乳頭切除術が有効だが、小児では全身麻酔が必要な場合がある。手術困難な場合は、抗アレルギー点眼等に加えてトリアムシノロンアセトニドのテノン嚢下注射を大人の半量で行うと改善することもある。
3. 角膜知覚神経とオキュラーサーフェス について
角膜における痛みの受容体は、・触覚・眼不快感や痛み・冷感や渇き の3つである。
TRP(transient receptor potential cation channel)チャネルといる冷感などの受容体があり、涙液の基礎分泌は角膜におけるTRPM8(TRP melastatin 8)が関係しているという報告もあるとのことでした。現在、TRPM8による新たなドライアイ治療の可能性が考えられており、次のドライアイの治療はTRPチャネルにかかわるものかもしれない、とのことでした。
<神経障害眼痛(Neurotrophic Ocular Pain)>
痛みは ①侵害受容性疼痛 ②神経障害疼痛 ③痛覚変調性疼痛の3つである。
原因不明の眼表面の疼痛を訴える方を診療した際、オキシブプロカイン点眼で疼痛が消失した場合は“末梢性の疼痛”、改善なかった場合は“中枢性の疼痛”であることがあり、中枢性の疼痛の場合は、プレガバリンの内服等で改善することもあるのではないか、とのことでした。
特別講演を通して、オキュラーサーフェス疾患についても理解が深まり、非常に勉強になりました。また、MGDの症例はたくさんあるなと感じていましたが、先生のご講演を拝聴し、実際にはそれ以上のMGDの患者さんが普段の診療の中に隠れているのではないかと思いました。改めて意識しながら今後の日常診療や治療に役立てていこうと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。
A先生(山口大学眼科)
第41回やまぐち眼科フォーラム特別講演2では、北海道大学大学院医学研究院眼科学教室診療准教授の加瀬諭先生に、「あらゆる眼腫瘍を駆逐する!」と題してご講演いただきました。
講演では、結膜腫瘍、眼瞼腫瘍、眼窩腫瘍および眼内腫瘍といった眼科におけるあらゆる腫瘍について、多くの実際の症例を提示していただきながら、それらの診断や治療について説明していただきました。眼腫瘍の治療は外科的治療が主体となり、解剖学的に多種多様な組織に発生する眼腫瘍手術では、翼状片手術といった結膜手術をはじめ、眼瞼内反症や眼瞼下垂手術などの眼瞼手術や、網膜硝子体手術といった様々な分野の手術を習得することが大切であるとのことでした。
まず初めに、結膜腫瘍についてお話いただきました。結膜乳頭腫の手術においては、外来処置で簡便に切除すると再発のリスクが高まるため、手術室で術野をしっかり確保し、非腫瘍部の結膜を把持しながら、慎重に切開を行い、確実に腫瘍を郭清することが重要だと強調されました。結膜MALTリンパ腫は結膜腫瘍の中で最も多く見られ、円蓋部にサーモンピンク色の病変として現れます。病理検査だけでは確定診断がつかない場合があるため、生材料を併せて採取し、免疫グロブリン重鎖JH領域遺伝子再構成やフローサイトメトリーを行って診断を裏付けることが必要であると学びました。結膜扁平上皮癌の治療としては局所切除を基本とし、マイトマイシンCなどの抗悪性腫瘍剤を併用します。組織学的には血管内皮細胞増殖因子(VEGF;vascular endothelial growth factor)やαB-crystallinの発現が強く見られることが特徴的であるとお話いただきました。結膜悪性黒色腫は原発性後天性メラノーシスから発生する腫瘤で、VEGFやCD34の発現が確認されます。一般的には生検は禁忌と考えられていますが、治療が行われない場合、制御不能な出血をきたす場合や、脳転移や全身多発転移のリスクがあるため、早期に生検を行い、適切な治療を開始することが重要であるとのことでした。
次に眼瞼腫瘤についてお話いただきました。脂腺癌やメルケル細胞癌といった悪性腫瘍では、試験切除の後に安全域3mmを確保して切除を行います。そして切除の部位や範囲によって、lateral tarsal flap等の皮弁を用いた最適な眼瞼再建法を選択する必要があります。ここでは実際にメルケル細胞切除に伴う眼瞼再建術として、Cutler-Beard架橋皮弁を用いた手術動画を拝見させていただきました。下眼瞼の全層を上眼瞼に移動して再建を行う術式であり、術後の機能回復と整容的な面でも優れていると感じました。また、留意すべき眼瞼腫瘤として眼瞼部のマダニ眼瞼刺症についてお話いただきました。マダニはBorrelia感染症を媒介し、角結膜やぶどう膜、硝子体、視神経といった炎症をきたすリスクがあるため、除去の際には眼瞼に口器を残存させないことが重要とのことでした。また摘出したマダニの病理画像をお示しいただき、ダニの口器における鋸歯状配列やセメント様物質が観察される画像は非常に印象的でした。
続いて、眼窩腫瘍についてお話いただきました。IgG4関連眼疾患は、特異的な所見として眼窩下神経の腫大が見られることが多く、様々な臓器病変を合併することが知られていますが、そのうち冠動脈病変を合併する症例があります。IgG4冠動脈病変は生命予後に関わるため、IgG4関連眼疾患においては全身検索が必須であると強調されました。また、ステロイド治療開始後は病変が消失するため、治療前の適切なタイミングでの検査が求められます。そして、近年報告されている新型コロナ関連慢性涙腺炎についてもお話いただきました。新型コロナウイルス感染後に眼瞼腫脹を呈する症例があり、病理学的には涙腺の腺房や導管に組織障害が認められ、涙腺組織にコロナウイルス蛋白の沈着が見られるとのことでした。
最後に、眼内腫瘍に関してお話いただきました。特に強膜切開を行って眼内にアプローチし、脈絡膜腫瘍を摘出する手術動画は、普段目にすることがなく、非常に刺激的かつ印象的でした。さらに、網膜下腫瘍の手術動画では、腫瘍部周囲の網膜をジアテルミー凝固して新生血管の形成を防ぎつつ、鉗子で把持して腫瘍を摘出する方法を紹介していだきました。
全体を通じて、眼科腫瘍の診断と治療においては、正確な病理診断と適切な手術技術が不可欠であることを強く感じました。また、この講演会を通じて、眼腫瘍に対する理解が深まり、今後の診療に大いに役立つ知識を得ることができました。これからも、眼腫瘍に関する知識をさらに深め、患者さんに最善の医療を提供できるよう、引き続き努力していきたいと思います。加瀬先生、大変貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。