山口大学医学部眼科山口大学大学院医学系研究科眼科学

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やまぐち眼科フォーラムArchive

2024年

第41回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2024年07月25日(木)18:00~20:00
場所
KDDI維新ホール
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特別講演1

座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生

『オキュラーサーフェス疾患アップデート2024』
東邦大学医療センター大森病院 眼科 教授 堀 裕一 先生

特別講演2

座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生

『あらゆる眼腫瘍を駆逐する!』
北海道大学大学院医学研究院眼科学教室
診療准教授 加瀬 諭 先生

特別講演印象記 ①

W先生(山口大学眼科)

 令和6年7月25日に山口県KDDI維新ホールにて第41回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演1では東邦大学医療センター大森病院眼科教授の堀裕一先生より、「オキュラーサーフェス疾患アップデート2024」という演題でご講演いただきました。

1. マイボーム腺の異常が関連する角結膜疾患 について

マイボーム腺の分泌形式は“全分泌“というもので、細胞膜の破裂によって内容物が分泌されるような分泌の仕方をしている。マイボーム腺開口部には皮膚と粘膜の境界(粘膜皮膚移行部muco-cutaneous junction)があり、フルオレセイン染色などを用いることで境界が見える。マイボーム腺開口部は皮膚側にあるのが正常であり、粘膜側に移行するのがMGDの患者さんの特徴である。MGDの定義は「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり、慢性の眼不快感を伴う」とされており、”MGD=ドライアイ“というわけではなく、MGDのみで流涙を訴える人もいる、とのことでした。

<MGDの診断において大事なポイント>

  • マイボーム腺開口部の閉塞所見がある
  • マイボーム腺開口部周囲の血管拡張がある
  • マイボーム腺開口部周囲の異常(眼瞼縁不整)
  • 粘膜皮膚移行部の前方または後方移動(フルオレセイン染色でみる)
<MGDの治療>
セルフマネージメント:
眼瞼縁の清拭(綿棒、アイシャンプーなど)、温罨法(アイマスク)
薬物・サプリメント治療:
サプリメント(オメガ3内服)、処方薬(ステロイド点眼、抗菌薬点眼・内服(アジスロマイシン、テトラサイクリン、ミノサイクリン))
眼科で行う処置:
油脂の蓄積の予防(鑷子を使って脂質を圧出する)、デバイスを使った新しい治療(IPL; Intense Pulsed Light,現在は自由診療)など
※光を照射して炎症を取り除く治療。皮膚科(美容皮膚科)で用いられてきた。MGD、ドライアイに効果があると報告されている。

2. アトピー性皮膚炎患者に生じる角結膜疾患 について

アトピー角結膜炎(AKC)

<治療>

  • 第一選択は抗アレルギー点眼
  • 効果不十分な場合は、ステロイド薬や免疫抑制点眼薬(タクロリムス点眼など)を併用する
  • 同時にアトピー眼瞼炎の治療も積極的に行う
  • ステロイド内服薬を処方する場合は、内科や皮膚科の専門医と連携する
  • 重症アトピー性皮膚炎の治療には、抗体製剤:デュピルマブ(注射)などの使用が行われることもある(ただ、結膜炎併発のリスクがある)
とのことでした。また、デュピルマブの結膜炎は重症化していても、ベタメタゾン点眼+タクロリムス点眼、レバミピド点眼などで治療を行うことで改善する場合がある、とのことでした。
そのため、原因不明の結膜炎をみた場合は、アトピー性皮膚炎でデュピルマブなどの注射を行ってないか問診することも大事であるとのことでした。

春季カタル(VKC)

<治療>

  • 第一選択は抗アレルギー点眼
  • 効果不十分の場合、次に加えるのは免疫抑制剤
  • 追加で悪化時のみ短期間でステロイド点眼を加えることもある
  • 乳頭切除術が有効だが、小児では全身麻酔が必要な場合がある。手術困難な場合は、抗アレルギー点眼等に加えてトリアムシノロンアセトニドのテノン嚢下注射を大人の半量で行うと改善することもある。
とのことでした。

3. 角膜知覚神経とオキュラーサーフェス について

角膜における痛みの受容体は、・触覚・眼不快感や痛み・冷感や渇き の3つである。
TRP(transient receptor potential cation channel)チャネルといる冷感などの受容体があり、涙液の基礎分泌は角膜におけるTRPM8(TRP melastatin 8)が関係しているという報告もあるとのことでした。現在、TRPM8による新たなドライアイ治療の可能性が考えられており、次のドライアイの治療はTRPチャネルにかかわるものかもしれない、とのことでした。

<神経障害眼痛(Neurotrophic Ocular Pain)>
痛みは ①侵害受容性疼痛 ②神経障害疼痛 ③痛覚変調性疼痛の3つである。 原因不明の眼表面の疼痛を訴える方を診療した際、オキシブプロカイン点眼で疼痛が消失した場合は“末梢性の疼痛”、改善なかった場合は“中枢性の疼痛”であることがあり、中枢性の疼痛の場合は、プレガバリンの内服等で改善することもあるのではないか、とのことでした。

特別講演を通して、オキュラーサーフェス疾患についても理解が深まり、非常に勉強になりました。また、MGDの症例はたくさんあるなと感じていましたが、先生のご講演を拝聴し、実際にはそれ以上のMGDの患者さんが普段の診療の中に隠れているのではないかと思いました。改めて意識しながら今後の日常診療や治療に役立てていこうと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

A先生(山口大学眼科)

 第41回やまぐち眼科フォーラム特別講演2では、北海道大学大学院医学研究院眼科学教室診療准教授の加瀬諭先生に、「あらゆる眼腫瘍を駆逐する!」と題してご講演いただきました。
 講演では、結膜腫瘍、眼瞼腫瘍、眼窩腫瘍および眼内腫瘍といった眼科におけるあらゆる腫瘍について、多くの実際の症例を提示していただきながら、それらの診断や治療について説明していただきました。眼腫瘍の治療は外科的治療が主体となり、解剖学的に多種多様な組織に発生する眼腫瘍手術では、翼状片手術といった結膜手術をはじめ、眼瞼内反症や眼瞼下垂手術などの眼瞼手術や、網膜硝子体手術といった様々な分野の手術を習得することが大切であるとのことでした。
 まず初めに、結膜腫瘍についてお話いただきました。結膜乳頭腫の手術においては、外来処置で簡便に切除すると再発のリスクが高まるため、手術室で術野をしっかり確保し、非腫瘍部の結膜を把持しながら、慎重に切開を行い、確実に腫瘍を郭清することが重要だと強調されました。結膜MALTリンパ腫は結膜腫瘍の中で最も多く見られ、円蓋部にサーモンピンク色の病変として現れます。病理検査だけでは確定診断がつかない場合があるため、生材料を併せて採取し、免疫グロブリン重鎖JH領域遺伝子再構成やフローサイトメトリーを行って診断を裏付けることが必要であると学びました。結膜扁平上皮癌の治療としては局所切除を基本とし、マイトマイシンCなどの抗悪性腫瘍剤を併用します。組織学的には血管内皮細胞増殖因子(VEGF;vascular endothelial growth factor)やαB-crystallinの発現が強く見られることが特徴的であるとお話いただきました。結膜悪性黒色腫は原発性後天性メラノーシスから発生する腫瘤で、VEGFやCD34の発現が確認されます。一般的には生検は禁忌と考えられていますが、治療が行われない場合、制御不能な出血をきたす場合や、脳転移や全身多発転移のリスクがあるため、早期に生検を行い、適切な治療を開始することが重要であるとのことでした。
 次に眼瞼腫瘤についてお話いただきました。脂腺癌やメルケル細胞癌といった悪性腫瘍では、試験切除の後に安全域3mmを確保して切除を行います。そして切除の部位や範囲によって、lateral tarsal flap等の皮弁を用いた最適な眼瞼再建法を選択する必要があります。ここでは実際にメルケル細胞切除に伴う眼瞼再建術として、Cutler-Beard架橋皮弁を用いた手術動画を拝見させていただきました。下眼瞼の全層を上眼瞼に移動して再建を行う術式であり、術後の機能回復と整容的な面でも優れていると感じました。また、留意すべき眼瞼腫瘤として眼瞼部のマダニ眼瞼刺症についてお話いただきました。マダニはBorrelia感染症を媒介し、角結膜やぶどう膜、硝子体、視神経といった炎症をきたすリスクがあるため、除去の際には眼瞼に口器を残存させないことが重要とのことでした。また摘出したマダニの病理画像をお示しいただき、ダニの口器における鋸歯状配列やセメント様物質が観察される画像は非常に印象的でした。
 続いて、眼窩腫瘍についてお話いただきました。IgG4関連眼疾患は、特異的な所見として眼窩下神経の腫大が見られることが多く、様々な臓器病変を合併することが知られていますが、そのうち冠動脈病変を合併する症例があります。IgG4冠動脈病変は生命予後に関わるため、IgG4関連眼疾患においては全身検索が必須であると強調されました。また、ステロイド治療開始後は病変が消失するため、治療前の適切なタイミングでの検査が求められます。そして、近年報告されている新型コロナ関連慢性涙腺炎についてもお話いただきました。新型コロナウイルス感染後に眼瞼腫脹を呈する症例があり、病理学的には涙腺の腺房や導管に組織障害が認められ、涙腺組織にコロナウイルス蛋白の沈着が見られるとのことでした。
 最後に、眼内腫瘍に関してお話いただきました。特に強膜切開を行って眼内にアプローチし、脈絡膜腫瘍を摘出する手術動画は、普段目にすることがなく、非常に刺激的かつ印象的でした。さらに、網膜下腫瘍の手術動画では、腫瘍部周囲の網膜をジアテルミー凝固して新生血管の形成を防ぎつつ、鉗子で把持して腫瘍を摘出する方法を紹介していだきました。
 全体を通じて、眼科腫瘍の診断と治療においては、正確な病理診断と適切な手術技術が不可欠であることを強く感じました。また、この講演会を通じて、眼腫瘍に対する理解が深まり、今後の診療に大いに役立つ知識を得ることができました。これからも、眼腫瘍に関する知識をさらに深め、患者さんに最善の医療を提供できるよう、引き続き努力していきたいと思います。加瀬先生、大変貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。

第40回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2024年01月27日(土)17:00~19:00
場所
KAMEFUKU ON PLACE
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特別講演1

座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生

『マイボーム腺疾患の診断と治療のエッセンス』
京都市立病院 眼科部長 / 京都府立医科大学
眼科臨床教授 鈴木 智 先生

特別講演2

座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生

『臨床に役立つもの作り(研究開発)へのとりくみと魅力』
佐賀大学医学部眼科学講座 教授 江内田 寛 先生

特別講演印象記 ①

M先生(山口大学眼科)

令和6年1月27日にKAMEFUKU ON PLACEにて第40回やまぐち眼科フォーラム並びに山口県眼科医会臨時総会が開催されました。特別講演1では京都市立病院眼科 部長・京都府立医科大学眼科 臨床教授 鈴木 智先生より、「マイボーム腺疾患の診断と治療のエッセンス」についてご講演いただきました。
細隙灯顕微鏡検査では初めからスリット光で観察を始めるのではなく、まずは弱拡大、拡散光で観察を始め、眼瞼に触れずに眼瞼下垂の有無や、マイボーム腺の開口部の状態、血管拡張の程度を観察することが重要とご教示頂きました。
前部眼瞼炎は睫毛根部を中心とした炎症で、睫毛根部のカラレットを認めるブドウ球菌性が代表です。後部眼瞼炎はマイボーム腺開口部周囲の炎症で、眼表面上皮障害と関連している場合をマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-related keratoconjunctivitis:MRKC)と呼びます。MRKCの中には角膜に点状表層角膜症superficial punctate keratopathy (SPK)を伴う非フリクテン型があり、SPKはドライアイとしての治療ではなくマイボーム腺炎を治療しなければ良くならないとのことでした。CNSやアクネ菌、黄色ブドウ球菌はマイバムの脂質(特にコレステロールエステル)を分解するリパーゼを産生し、マイバムが分解されて細胞毒性を持つ遊離脂肪酸が増加するために角膜にSPKが生じ、球結膜にはSPKはみられないとのことでした。そのため細菌数が減ればマイバムのコレステロールエステルが分解されにくくなるため遊離脂肪酸が減少し、SPKを改善できます。若年者の非フリクテン型MRKCでは抗生剤のみでSPKを消退できる場合が多いですが、高齢者の場合は抗生剤治療後にSPKが残る場合、ドライアイの治療を追加する必要があるとのことでした。治療の具体例としてテトラサイクリン系抗生剤は細菌のもつリパーゼ活性を低下させる効果をもつため、ミノサイクリン内服での治療後、SPKの残存がある場合にはレバミピド点眼で治療するなど、2ステップでの治療が有効とご教示頂きました。
MRKCのフリクテン型ではマイボーム腺炎に対応する位置の角膜に炎症細胞浸潤や、血管侵入を伴い、小児や若い女性に多く、程度の差はあれども両眼性が多く、霰粒腫の既往があることが多いです。全身的な抗生剤内服治療が効くとのことで、治療の具体例としてはクラリスロマイシン内服、セフメノキシム点眼、0.1%フルオロメトロン点眼で改善した6歳男児の症例等をお示しいただきました。
マイバムの分泌量に関して、閉経前は女性<男性ですが閉経後は女性=男性となります。女性は月経周期により一過性のマイバム分泌量の増加が引き起こされ、それを繰り返すうちにMGDを引き起こす可能性があるとのことでした。 眼表面のマイクロバイオームは若年者ではアクネ菌が多い一方で、高齢者ではアクネ菌は減少し、コリネバクテリウムやナイセリアが増加して多様性が低下 してくるとのことで、抗生剤選択に活かしたいと思いました。
MGDには分泌減少型と分泌増加型があり、分泌減少型はびまん性のマイボーム腺開口部閉塞所見を認め、マイバムの粘稠性や排出低下が起こります。分泌減少型MGDのマイバムには融点が約70℃のステアリン酸が多く含まれており、マイバムの融解温度が上昇しています。分泌増加型のMGDでは融点が約13℃のオレイン酸が増加しています。分泌減少型MGDの非炎症型では蒸発亢進性ドライアイを認めるため、ドライアイへの点眼治療に加えて温罨法が効果的であるとご教示頂きました。

後半では霰粒腫についてご講演頂きました。霰粒腫はマイボーム腺のうっ滞による慢性炎症性肉芽腫です。女性ホルモンがマイボーム腺開口部の閉塞、マイバムのうっ滞を引き起こすため40代までは女性に多く、40代以降では性差はないとのことでした。うっ滞したマイバムが異物反応を起こして巨細胞を含む肉芽組織を形成しますが、アクネ菌がマイバムの質的変化を起こすことが病態に関与するため、切開搔爬も効果がありますが、アクネ菌を減らすことも重要とご教示頂きました。
全体を通して、マイボーム腺疾患をどのように診断し、治療に繋げていくかについて大変わかりやすくご講演頂きました。マイボーム腺疾患は日常診療で出会う機会が非常に多く、それだけ困っておられる患者さんも多いと感じています。今回学んだ知識を生かして、より質の高い医療を提供していきたいと思いました。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

T先生(山口大学眼科)

 令和6年1月27日に湯田温泉にあるKAMEFUKU ON PLACEで第40回山口眼科フォーラムが開催されました。特別講演②では佐賀大学医学部眼科学講座教授の江内田寛先生より、「臨床に役立つものづくり(研究開発)へのとりくみと魅力」についてご講演いただきました。
 はじめに今までの研究についてお話いただきました。トリアムシノロンが硝子体を可視化することから、ブリリアントブルーG(BBG)の開発にたどり着いたそうです。BBGは現在世界91か国で使用されており、白内障手術・硝子体手術で使用されている薬剤です。また内境界膜(ILM)剥離用のILM鉗子の開発も行われたとのことでした。眼底酸素飽和度測定装置の開発も検討し、酸化ヘモグロビンの波長、還元ヘモグロビンの波長に合わせて画像を2枚撮影し、それらからデータ抽出を通して眼底の酸素飽和度を表す装置を開発していたそうです。しかし時代が光干渉断層計(OCT)へ移っていたため、実用化には至らなかったとのことでした。
 そのためOCTを生かせる研究について考えてこられたそうです。OCTアンギオは造影剤を使用せずに血管の走行や無灌流領域などを判断できる装置として活躍しています。VISTA(variable interscan time analysis)という血管構造だけではなく、血管の血流速度を測定する方法について研究を行っているとのお話でした。通常のOCTは、人が文章をよむときのように左から右といった形式を繰り返すように画像を読み込んでいきますが、これでは通常のOCTと比較してデータが多く必要な場合は読み込む量が多く、その分微小な眼球運動などによる画像の不鮮明化が起きやすいとされていました。しかしアンモナイトのようにらせん状に中心から徐々に外周にかけてスキャンしていく方法を採用することで、微小な眼球運動による位置ずれを補正することができたとのことでした。また処理速度などの上昇を目指して研究を続けられているそうです。そのほかにも臨床に応用できる研究に取り組んでおられるとのことでした。
 最後に研究に携わるうえでの大事な点についてお話しいただきました。①何もやらなければ、何も生まれないこと、②わかっていても新鮮な思いつきが重要であること、③経験による発想の阻害があることを理解すること、④単純かつ安価なものであること、⑤1人ではできないこと、の5つを教えていただきました。日常診療の中から研究にかかわるテーマを常に気にかけている姿勢が大事なのだと感じました。
 臨床に生かす研究を続けてこられている先生からのお話はとても有意義でした。この度は貴重なご講演を誠にありがとうございました。

2023年

第39回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2023年06月17日(土)17:00~19:00
場所
KDDI維新ホール
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特別講演1

座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生

『加齢黄斑変性治療の現状と近未来』
琉球大学大学院医学系研究科 医学専攻眼科学講座
教授 古泉 英貴 先生

特別講演2

座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生

『難治性眼表面疾患の診方と考え方』
京都府立医科大学 眼科学教室 教授 外園 千恵 先生

特別講演印象記 ①

原口 愛子(周東総合病院眼科)

 令和5年6月17日にKDDI維新ホールで第39回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演①では琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座教授の古泉英貴先生より、「加齢黄斑変性治療の現状と近未来」についてご講演いただきました。

●滲出型AMD治療の現状と課題
 現在、未治療の滲出型AMDの治療に対しては90%以上で抗VEGF薬単独治療が行われています。治療トレンドの変化として、これまでに報告されてきたJFK試験、ALTAIR試験、Modified TAE法、Trinity Regimenについて視力や投与回数のデータを踏まえてご説明いただきました。患者さんのニーズに合わせて長期的な視力維持と治療回数を少なくすることを目標として投与レジメンを工夫することが大切であるとお話しいただきました。また、日本人はAMDの半数以上をPCVが占めていること、AMDの予後を規定する因子である黄斑萎縮、線維化に注意して治療に当たることが必要であるとご教授いただきました。

●作用機序から考える滲出型AMD治療
 正常血管、病的血管におけるVEGF-A、Ang-1、Ang-2の作用についてご説明いただきました。VEGF-Aはコントロール群と比較してAMD群では高値となっていますが、PNV群ではコントロールと差がなく、このため、PNVに関してはVEGFを制御するだけでは治療が不十分である可能性があるとご説明いただきました。また、自治医科大学の研究からAng-2 はコントロール群と比較して、pachychoroid(+)、ドルーゼン(-)群では高値ですが、pachychoroid(-)、ドルーゼン(+)群では差はないことが明らかになったと教えていただきました。これは、ドルーゼン由来のAMDとpachychoroid由来のPCVで治療効果に差が出る背景の一つと考えられます。バビースモは抗Ang-2 Fabと抗VEGF-A Fabが同一分子内に存在するため、この両方の作用によってより強力に血管を安定化することが可能になると考えられるとのことです。また、Fc領域の改変により血中に放出されず全身暴露量が低下し、さらに免疫細胞に結合しないため抗体依存性の細胞傷害が生じないことが、安全性につながるとご説明いただきました。

●TENAYA/LUCERN試験2年目データ
 TENAYA/LUCERN両試験でアイリーア群と比較してバビースモ群は投与回数、視力維持に関して非劣性であること、安全性に関しても特記すべき差はないことが報告されたとご説明いただきました。PCVにおいては、バビースモ群では48週時点で半数以上にポリープの消失が認められ、治療間隔の延長に関してもアイリーア群と比較して非劣性であることが示されたとのことです。

●琉球大学での治療方針
 琉球大学では現在、AMD治療において新規の患者にはほとんどバビースモを使用し、導入期3回投与後、1か月幅調整のTAE法に速やかに移行し、最長4か月間隔に移行しているとご教授いただきました。また、他剤で加療を行っており、TAEで投与間隔が2か月未満の症例はバビースモへの切り替えを行っており、この場合は、既存薬の投与間隔から開始して、間隔を徐々に延ばしていくという方法をとっておられるとのことです。

加齢黄斑変性症の病態から治療まで丁寧にご説明いただき、大変勉強になりました。抗VEGF薬を用いた加療を要する患者さんは多く、それぞれに合った薬剤選択や投与レジメンの工夫が重要であることを改めて感じました。この度は大変貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

竹中 優嘉(山口大学眼科)

 第39回やまぐち眼科フォーラムが、2023年6月17日に山口市のKDDI維新ホールで開催されました。特別講演2では、京都府立医科大学眼科学教室教授 外園千恵先生に「難治性眼表面疾患の診方と考え方」と題してご講演いただきました。
 はじめに、眼表面疾患を診療するにあたりまずは弱拡大で眼瞼縁、皮膚粘膜移行部、皮膚を観察することとのお話があり、診察の基本ではありますが、その重要性を再認識しました。角膜上皮ステムセル疲弊症は、角膜上皮と結膜上皮の境界に存在する幹細胞が機能不全となり角膜表面に結膜が侵入し、瞳孔領が結膜に置き換わって角膜の透明性が失われ視機能障害をきたすもので、原因として結膜侵入、先天無虹彩、腫瘍、周辺部潰瘍、薬剤毒性、放射線、化学外傷・熱傷、Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡などが挙げられます。本日はこの中でも「難治性眼表面疾患」と呼ばれる腫瘍、化学外傷・熱傷、Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡について詳しくお話しいただきました。
 まず腫瘍について、結膜上皮系腫瘍眼表面扁平上皮新生物Ocular Surface Squamous Neoplasia(OSSN)はDysplasia、SCC in situ(CIN)、invasive SCCの3つに分類され、頻度は10万人中0.02~3.5人と少なく、SCCは転移は稀ですが再発の多い疾患です。SCC(扁平上皮癌)を疑うポイントとして、一箇所から水平方向に広がってくる腫瘤であること、太い栄養血管を有すること、花火様微小血管が特徴的であり強拡大で観察してみること、境界が分かりにくい場合はフルオレセインで染色すると上皮が脆弱な病変部で染色が見られることをご教授いただきました。また、翼状片に類似・合併するSCCも存在し、怪しいと思ったらフルオレセインで染色されるかどうかを確認する必要があるとのことで、今後翼状片の診察の際にはSCCも念頭に置き注意深く観察する必要があると感じました。早期発見で予後は良好で、腫瘍切除や眼表面再建、術後の抗腫瘍点眼による治療についてもご提示いただきました。この他、結膜乳頭腫、MALTリンパ腫、結膜アミロイドーシスも鑑別症例として挙げられ、それぞれの特徴をご教授いただきました。
 次に化学外傷、熱傷について、実際の症例をご提示いただきながら、受傷直後はフルオレセイン染色による輪部幹細胞の有無の判定が難しいため木下分類のGrade3aと3bの判断には数日を要する場合があること、また初期治療がその後の視力予後に関わり、徹底した消炎治療を行うことが重要であることをお話しいただきました。
 続いてお話頂いたStevens-Johnson症候群は、医薬品の副作用で発症する疾患であり、小児・若年で重症化し、感冒症状後に発疹・充血・偽膜形成・角膜上皮欠損を生じます。充血、ドライアイ所見のみでは視力予後良好ですが、偽膜や角膜上皮欠損を認める症例では急性期の涙液中サイトカインの上昇がみられ、視力障害が残るとご教授いただきました。さらに、口腔・口唇の出血やびらん、爪囲炎・爪の変形と眼所見が連動しているとのことでした。
 眼類天疱瘡についても実際の症例をもとに、睫毛乱生、ドライアイ、結膜嚢短縮、瞼球癒着を呈する疾患であること、診察時に上方視で結膜嚢短縮を認める場合はシルマー試験を行うことで診断できる可能性があることを示されました。類天疱瘡は、眼所見を認める症例では口腔等の粘膜病変や皮膚病変を認めない場合も多いとのことで、眼科診察で類天疱瘡を疑って皮膚科医へ繋げることも大切であると感じました。
 最後に、外園先生の施設で実際に行われている羊膜移植や培養自家口腔粘膜上皮シート移植、輪部支持型ハードコンタクトレンズに関しても症例をお示しいただき、角膜上皮ステムセル疲弊症に対する治療の選択肢が増えていることを学びました。
 今回ご講演いただいた診察のポイントを念頭に置きながら、明日からの前眼部診療に望みたいと思います。外園先生のご講演を直接拝聴でき、大変学びの多い時間でした。ご講演いただきました外園先生、この度は誠にありがとうございました。

第38回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2023年01月21日(土)18:00~20:00
場所
セントコア山口「サファイア」
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特別講演1

座長:山口県眼科医会 副会長 相良 健 先生

『水濡れ性を意識したドライアイ点眼治療』
慶應義塾大学医学部眼科学教室 特任講師
ケイシン五反田アイクリニック 副院長 内野 裕一 先生

特別講演2

座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生

『新しいガイドラインから考える緑内障治療アップデート2023』
熊本大学眼科 教授 井上 俊洋 先生

特別講演印象記 ①

舩津 法彦

2023年1月21日にセントコア山口で第38回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演1では、慶応義塾大学医学部眼科学教室 特任講師 ケイシン五反田アイクリニック副院長 内野裕一先生より、「水濡れ性を意識したドライアイ点眼治療」についてご講演いただきました。
① 眼表面の水濡れ性を決めるムチンの特性
② グライコカリックスバリアを理解しよう!
③ SPKに水をあげよう。各薬剤の使いどころは?
以上3つのテーマを中心にご講演していただきました。
2016年のドライアイ診断基準は自覚症状とBUT5秒以下であり、シルマー値や角膜上皮障害の有無に依存しません。しかしながら、BUTが短縮するだけで高次収差が増加する、実用視力が低下する、ドライアイ様の自覚症状、特に眼精疲労が生じるといった問題が生じます。
BUT短縮型ドライアイのメカニズムですが、アレルギー、炎症、ストレスでムチンの発現変化が生じることによって起こります。ムチンは分子量が250kD以上の大きな高分子蛋白で、分子量の80%はコア蛋白に付着する多数の糖鎖で構成されます。ムチンは涙液の保持や、眼表面を潤滑にする、眼表面のバリア機能などの役割を果たしています。分泌型ムチンは涙液の表面張力を低下させ、眼表面の水濡れ性を改善しています。シェーグレン症候群のドライアイ患者さんでは涙液中のムチンMUC5ACが減少していると言われています。オフィスワーカーを対象とした大阪スタディーでは、涙液中のムチンMUC5ACの量は非ドライアイ群、ドライアイ疑い群、ドライアイ群の順で減少していたという結果が出ました。またVDT作業が長いと涙液中のムチンMUA5Cの量が少ないという結果も出ました。
眼表面の角膜上皮細胞には微絨毛が発現していて、その上にグライコカリックス(糖衣)がバリアを形成し、眼表面を保護しています。グライコカリックスは糖タンパクで構成されており主な構成要素は膜型ムチンです。
ガレクチン3はバリア機能維持に重要で、正常時に膜型ムチンと結合し、涙液層と上皮細胞の間でグライコカリックスバリアとしての役割を果たしています。BUTが短いドライアイ患者さんでは、膜型ムチン発現が低下し、涙液中ガレクチン3濃度が高いと言われています。
講演のまとめになります。①分泌型ムチン(MUC5AC)や、膜型ムチンは眼表面の水濡れ性に関与しています。②グライコカリックスバリアの維持には膜型ムチンMUC16だけでなく、ガレクチン3も重要です。③ドライアイ患者さんの涙液中ガレクチン3濃度の上昇はグライコカリックスバリアの破綻というサブクリニカルな変化を捉える一つの手段となり得ます。④角膜中央部のSPK改善には涙液保持が重要で、盗涙を生じやすいヒアルロン酸より、水分や分泌型ムチンの分泌効果を持つジクアホソルナトリウム点眼液がより有用と考えられます。⑤新たに開発されたジクアホソルナトリウム点眼は、既存よりも少ない点眼回数で角膜上皮障害の改善や、長く涙液層を保持することが可能となりました。
特別講演1を通して、日々外来で遭遇するドライアイ患者さんに対して、水濡れ性を意識したドライアイ点眼治療を今後提供できたらと思います。
この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

原口 愛子

令和5年1月21日にセントコア山口で第38回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演2では熊本大学眼科教授の井上俊洋先生より、緑内障診療ガイドライン第5版を踏まえた、緑内障治療にまつわる最近の話題についてご講演いただきました。

1. 薬物・レーザー治療の追加項目
今回、ガイドラインに新たにEP2受容体選択性作動薬のオミデネパグが記載されたこと、β遮断薬を含まない配合薬が登場したことで2ボトル4剤が実現したこと、薬物治療で目標眼圧が達成できない場合や、アドヒアランスが非常に悪い症例ではSLTを考慮すると良いということ、MP-CPCは難治緑内障に対して有用性が示されており安全性も高いとされていること等をお話しいただきました。高齢化社会が進む中で、緑内障治療においてはアドヒアランスをいかに向上させるかが重要であるとお話しいただき、配合薬の使用やレーザー手術の併用など治療を工夫することが求められると感じました。
MP-CPCについては井上先生の施設では、平均眼圧は約30%の低下が得られましたが、効果は症例により違いがあるとのことです。極端に重症な合併症は認められませんでしたが、海外施設では従来通りの方法で使用した79眼中2眼で眼球癆が認められるなど重篤な合併症も報告があるとお話しいただきました。

2. システマティックレビュー
それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)についてひとつずつ丁寧にご説明いただきました。
高眼圧症に対しては、井上先生は20mmHg台後半であれば治療を開始すべきと考えておられること、OCTはアーチファクトや網膜血管異常など緑内障以外の疾患による変化にも注意が必要であり総合的に判断する必要があること、線維柱帯切除術には失明に至るような合併症が5年で2.2%あること、線維柱帯切除術とチューブシャント手術の眼圧下降効果の比較では術前眼圧が低い例では前者、術前眼圧が高い例では後者でより眼圧下降の効果が得られたというデータがあること、線維柱帯切除術後のステロイド点眼、抗菌薬の点眼・軟膏治療については、井上先生は正常例では抗菌薬点眼は術後1ヶ月間使用し、ステロイド点眼は3ヶ月間使用されていること、線維柱帯切除術時に白内障手術の適応があれば、井上先生は別創で白内障手術を併施されること等ご教授いただきました。それぞれのCQについてエビデンスを示していただきながら、具体例や井上先生の見解をお話しいただき、大変勉強になりました。

3. 新しいチューブシャント
プリザーフロマイクロシャントおよびXenという2つの新しいデバイスについてご説明いただきました。プリザーフロについては、図や実際の手術動画を供覧いただきご説明いただきました。眼圧下降効果は長期的には線維柱帯切除術の方が良いですが、術後の前房出血や術後介入はプリザーフロの方が少ないという結果が出ていることを教わりました。プリザーフロは、トラベクレクトミーの適応があり、瘢痕形成リスクが低く、かつ安全性優先の例が良い適応と考えておられるとのことです。

特別講演を通して、緑内障治療に対する理解が深まり、大変勉強になりました。緑内障は日本では後天性失明原因の第1位であり、患者さんの目を守るためには最新の知識を取り入れて診療に当たることが必要であると感じました。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

2022年

第37回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2022年07月02日(土)18:00~20:00
場所
山口グランドホテル2階『鳳凰』
詳細
PDFはこちら
特別講演1

座長:山口県眼科医会 会長 / 大西眼科 院長 大西 徹 先生

『ここまで変わった!円錐角膜診断・治療の最前線~CuRV,PiXLからAI診断まで~』
北里大学 医療衛生学部 教授 神谷 和孝 先生

特別講演2

座長:山口大学大学院医学系研究科眼科学 教授 木村 和博 先生

『糖尿病黄斑浮腫に対する抗 VEGF 薬の導入および維持療法の実際』
白矢眼科 副院長 / 黄斑疾患研究所 所長 北野 滋彦 先生

特別講演印象記 ①

和才 友紀

令和4年7月2日に山口グランドホテルで第37回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演では北里大学医療衛生学部教授 神谷和孝先生より、「ここまで変わった!円錐角膜診断・治療の最前線~CuRV、PiXLからAI診断まで~」についてご講演いただきました。

1.円錐角膜の疫学
円錐角膜の疫学、診断、治療についてご教授いただきました。以前は、1000~2000人に1人と言われていましたが、最新の全国調査では375人に1人ともいわれており、白人よりもアジア人に多く、多くは思春期に発症するとのことでした。円錐角膜はCommon diseaseですが、初期診断は困難であり見逃されている疾患であることでした。

2.円錐角膜の診断
円錐角膜を細隙灯顕微鏡検査で診断することは難しいため、角膜形状解析で診断することが大切であり、近年は各機種スクリーニングテストがあるため、診断が簡単になったとのことでした。円錐角膜は角膜前面だけでなく、角膜後面の形状変化もみられるため、角膜前後面の形状解析することが大切であるとのことでした。また、トポグラファーがない施設では、ケラト値が46D以上ある症例や、乱視が2D以上ある症例、若年者の斜乱視、角膜厚が500μm以下の症例、視力がでにくい症例や、視力や屈折が変動しやすい症例に注意して診察することが大切であるとのことでした。また、アトピーがある方はEye Rubbing(目をこする)が進行のリスクになるため、眼瞼の状態をチェックすることが大切であるとのことでした。

3.円錐角膜の治療
保存的治療として、眼鏡やHCL、トーリックSCLなどがある以外に、外科的治療として、トーリック有水晶体眼内レンズ(phakic IOL)、角膜内リング(ICRs)、クロスリンキング(CXL)などがあるとのことでした。角膜収差≦0.5μm(4㎜)など軽度の円錐角膜の方や、HCL装用困難な方はトーリックIOLの適応となるとのことです。また、FLAK後の円錐角膜の重症度がG4から1~2へ改善したとの報告もあるとのことでした。円錐角膜の外科的治療である角膜クロスリンキング(CXL)は、進行を抑制する唯一のエビデンスある治療であり、CXL後、90~95%の円錐角膜が進行停止し、角膜移植件数が半減したとの報告もあるとのことでした。CXLは、手術というよりは処置に近く、適応選択を誤らなければ安全性は高いもので、あくまで、進行予防の治療であり、視機能を改善するものではなく、移植に至らないようにするものである治療であるとのことです。現在、CXL装置は国内未承認、自費診療で行われていますが、現在、北里大学では、円錐角膜の治療として、CXLの手術件数は角膜移植を圧倒的に上回っているとのことで、円錐角膜の標準的な治療であるとのことです。CXLの適応基準としては、24か月で、最大角膜屈折力(Kmax)が1.0D増加した症例や、最菲薄部角膜厚が400μm以上である症例などが適応となるとのことですが、角膜トポグラファーのない施設では、患者さんの自覚症状が悪化している場合や、ケラト・レフの変化している症例、進行のリスクが高い10~20代の若年である症例を、円錐角膜が進行していると判断するとのことでした。

4.新たなトレンドとしてのCuRV/PiXLの可能性について
円錐角膜の脆弱な部分は、角膜全体ではなく、角膜突出部のみであることが解明され、角膜全体にUV照射するのではなく、脆弱部のみに照射できるCustomized CXL(CuRV)は、手術侵襲が減り、内皮機能低下の程度を抑え、上皮下混濁の程度を減少させることができる治療であるとのことでした。裸眼視力が0.5から1.2まで改善した人や、ペルーシド角膜辺縁変性の人も、角膜形状解析改善、乱視も軽減したとのことでした。術後1年成績としては、Kmaxが改善し、5割の人がBCVAが向上したとのことです。また。PiXLとは、局所的に耐性を上げて、角膜形状を変化させる治療法で、近視には真ん中、遠視にはドーナツ状、乱視には蝶ネクタイ型に照射することで、軽度近視、遠視、乱視矯正が可能で、矯正力は弱いが、耐性強化に加えて屈折改善できる治療法であるとのことでした。

5.北里大学での研究、おまけ
円錐角膜が進行しているかの判断は本当に困難ですが、データ登録システムを構築できれば、進行しているか判断可能であるため、北里大学では、円錐角膜が疑われた時点で、一度病院を受診し、視力、屈折、角膜前後面形状解析、生体力学特性検査を行い、ベースラインを作成することで、円錐角膜の進行の有無を判断できるようにしているとのことでした。また、円錐角膜の方の眼内レンズの度数計算は非常に困難ですが、ケラトのみの場合は、SRT/T式、あるいは、Kane式で計算するとずれが少ないのではないかとのお話でした。47D~48Dまでの軽度の円錐角膜は通常通りの計算、中等度50Dと超える症例では、ケラトで計算すると、50Dでは+1D、55Dでは+2.5D、60Dでは+4Dのように、円錐角膜の重症度に比例して遠視化するため、やや近視ぎみに目標屈折度数を設定することが重要であるとのことでした。

特別講演を通して、円錐角膜の疫学から診断、治療についての理解が深まり、非常に勉強になりました。円錐角膜は罹患率が高く、移植まで至らないためにも早期発見が重要な疾患ですが、早期の診断は困難で、見逃されている病態であることを学びました。先生のご講演を今後の診療に活かし、日々の診療において少しでも多くの円錐角膜を見逃すことのないようにできればと思います。この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

舩津 法彦

2022年7月2日に山口グランドホテルで第37回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演②では白矢眼科・副院長/黄斑疾患研究所・所長の北野滋彦先生より,「糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の導入および維持療法の実際」についてご講演いただきました。以下,私が特別講演②で学んだことを記します。

糖尿病網膜症とは糖尿病に起因した特徴的眼底所見を呈する病態で,基本的には網膜における細小血管障害に起因する種々の変化が生じます。眼底に出血,白斑を来す多くの疾患が鑑別診断の対象となりますが,診断は眼底所見に加えて種々の検査を組み合わせ,総合的に行う必要があります。糖尿病網膜症診療の目的は,早期に診断し,適切な治療を適切な時期に行うことで,quality of vision(QOV)ひいては quality of life(QOL)を維持することです

国際重症度分類に関しては,眼科医と内科医の連携を促進することも一つの目的として作成されました。Early Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)分類,臨床試験, 疫学研究の結果をもとに作成された眼底所見のみに基づいた分類です。基本的な考え方は,「眼底所見をもとに増殖糖尿病網膜症への進展の確率」を表した重症度分類であることで,網膜症を,無/非増殖/増殖の3つに大別し,さらに非増殖網膜症を軽症/中等症/重症に分けています。毛細血管瘤のみを軽症,4象限で20個以上の網膜 出血,2 象限以上での静脈数珠状拡張,1象限以上での 網膜内細小血管異常(intraretinal microvascular abnormalities:IRMA)のいずれかを認めれば重症と定義しています。中等症は軽症と重症の間の状態と定義されます。

糖尿病黄斑浮腫の分類に関しては現在,次の4種類:1. 中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫と中心窩を含まない糖尿病黄斑浮腫,2. 視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫,3. 局所性浮腫とびまん性浮腫,4. 糖尿病黄斑浮腫の国際重症度分類,が混在して用いられています。

1. に関してですが,中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫は,中心窩を中心とする直径1 mm の円の平均網膜厚(中心網膜厚)が基準値以上であることをもって,糖尿病黄斑浮腫と診断されます。これまでの多施設臨床研究では,一般にスペクトラルドメイン光干渉断層計での中心網膜厚300 μmが黄斑浮腫のcut-off valueに設定され,中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫と診断されてきました。

2. に関してですが,「視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫」は,浮腫と黄斑の中心(中心窩)の位置関係から以下に記すA~Cの3パターンがあり,いずれも早急な治療が望ましいとされます。A. 中心窩もしくは中心窩から500 μm以内の網膜の肥厚,B. 中心窩もしくは中心窩から500 μm以内の硬性白斑があり近接した網膜の肥厚を伴う,C. 1 乳頭径大以上の網膜の肥厚で,その一部が中心窩から1乳頭径以内に存在する,とされています。

糖尿病網膜症の治療に関しては,Ⅰ:網膜所見なし,Ⅱ:軽症または中等症非増殖糖尿病網膜症(視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫を伴わないもの),Ⅲ:軽症または中等症非増殖糖尿病網膜症(視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫を伴うもの),Ⅳ:重症非増殖糖尿病網膜症,Ⅴ:増殖糖尿病網膜症によって分けられます。

Ⅰの場合,現在糖尿病網膜症を認めない症例でもその後に1型糖尿病,2型糖尿病ともに年率約3~4%で網膜症を発症すると報告されており,定期的な眼科受診が推奨されます。

Ⅱの場合,眼科的な網膜症治療を必ずしも要しない病期ですが,より進行した網膜症で眼科的治療が必須な病期へ進む危険があり,定期的な眼科検査が推奨されます。

Ⅲの場合,1. 抗VEGF療法,2. 直接/格子状網膜光凝固,3. ステロイド療法,4. 網膜硝子体手術があります。

Ⅳの場合,国際重症度分類における重症非増殖糖尿病網膜症は1 年以内に半数が増殖糖尿病網膜症に進行します。白内障が進行している症例や通院の困難な症例では,この時期に蛍光眼底造影を行い,適応がある場合は早めに汎網膜光凝固を施行することが望ましいとされます。 我が国では,網膜の小梗塞巣である軟性白斑が出現した場合は,蛍光眼底造影を行い増殖前糖尿病網膜症の病態である網膜血管の閉塞,すなわち無灌流領域(nonperfusion area:NPA)の有無を調べます。NPAに対しては,網膜光凝固を開始し,同部位での VEGF 産生を低下さ せることを考慮するのが一般的です。一つの目安として,NPA が3象限以上に存在する場合は汎網膜光凝固を行うことが推奨されています。

Ⅴの場合,1.汎網膜光凝固,2.硝子体手術があります。1.に関してですが,Diabetic Retinopathy Study(DRS)では,増殖糖尿病網膜症の中でも,① 乳頭外新生血管,② 乳頭新生血管,③ 重度の新生血管(視神経乳頭から1乳頭径大内の新生血管で3分の1~4分の1乳頭面積以上のものや,乳頭外新生血管で少なくとも2分の1乳頭面積以上のもの),④ 硝子体出血または網膜前出血の4つの特徴のうち3つの特徴を有するものをハイリスク増殖糖尿病網膜症と定義されています。汎網膜光凝固により,網膜新生血管の消退を誘導できることが多いことから,ハイリスク増殖糖尿病網膜症に対しては例外なく可及的速やかに汎網膜光凝固を行うべきとされます。新生血管の退縮を目的とする場合は,ETDRSが推奨した従来の照射条件(0.2秒,200 μm,200 mW)を基準とするレーザーが適しています。短時間照射(照射時間が 0.02~0.03 秒)によるパターン照射を用いた汎網膜光凝固では,網膜光凝固斑が経時的に縮小することが知られ,新生血管の退縮を狙う場合は凝固不足となる場合があります。短時間照射で網膜光凝固を行う場合は,凝固不足にならないよう注意を要します。2.に関してですが,硝子体手術は,黄斑部をおびやかす牽引性網膜剝離,裂孔併発型牽引性網膜剝離,出血量の多い硝子体出血,遷延する硝子体出血や反復する硝子体出血,汎網膜光凝固の完成が不可能な硝子体出血などが適応とされます。硝子体出血と虹彩新生血管を併発する患者は,迅速に硝子体手術を施行して術中に網膜の最周辺部まで届く汎網膜光凝固を行うべきとされます。

特別講演②を通して,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の導入および維持療法についての理解を深めることができました。 この度はご講演いただき誠にありがとうございました。

第36回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2022年01月15日(土)17:00~19:00 特別講演1,2
19:00~20:00 山口県眼科医会臨時総会
場所
オンライン開催(Zoomウェビナー)
詳細
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特別講演1

「人工知能技術(AI)で良くなる眼科医療」
広島大学大学院医系科学研究科医療のためのテクノロジーとデザインシンキング寄附講座 教授
ツカザキ病院 眼科主任部長
田淵 仁志 先生

特別講演2

「網膜静脈閉塞症の歴史と現在の治療・研究update」
大阪医科薬科大学眼科学教室 教授 喜田 照代 先生

特別講演印象記 ①

竹中 優嘉

2022年1月15日、第36回やまぐち眼科フォーラムがWeb開催されました。
特別講演1では、広島大学大学院医系科学研究科医療のためのテクノロジーとデザインシンキング寄附講座教授の田淵仁志先生に「人工知能技術(AI)で良くなる眼科医療」と題してご講演を賜りました。
まず、日本では生産年齢人口激減や病院数増加、ワークライフバランス変化といった現状があり、より良い医療を提供するためには集約化が必要であることについてお話しいただきました。網膜剥離手術を例に、術者固定の場合と術者複数の場合での手術成績や緊急対応、人的資源で比較した際のそれぞれのメリット、デメリットが示されました。術者固定の場合はスケールメリットに結びつかない一方で、術者複数の場合は学習効果が高くスケールメリットを生むが手術成績不安定という問題があり、これを解決するためのリーダーのマネジメントが重要であると説明していただきました。その上ですべての意思決定行動にはバイアスを前提とした思考が必要であり、行動経済学の登場によりマネジメントは大きく変化し、リーダーは自身の成果ではなくマネジメントするチームの成果が問われるようになったとのことです。ヒトは分かっていてもバイアスを除外できないという問題点を抱えていますが、そこにAIを介入させることで解決へ導けないか、というお話でした。
次に、田淵先生の勤務されるツカザキ病院眼科で実際に構築されている、白内障手術合併症や網膜剥離復位率のデータベースについてお話しいただきました。AIにより白内障手術リスク値をリアルタイムで算出することにより92%でトラブルを事前予測することが可能であり、これにより患者さんと研修医を守る仕組みが築けているとのことでした。また、スタッフとレジデントによる白内障手術のPhacoやCCCでの手技もデータ化され、危険率も示されました。
また、ツカザキ病院眼科で導入されている手術室内医療安全管理AIシステムをご紹介いただきました。患者、眼の左右、眼内レンズの間違いは世界共通であり、その発生頻度は7人/10万人(0.0069%)との報告が示されました。特に白内障手術は最も施行件数の多い外科術式であり、そういった間違いをいかに避けるかが課題です。ツカザキ病院眼科では、リアルタイムで手術室を監視できるモニターやリスト、手術室入室時顔認証、左右眼認証、眼内レンズ認証のシステムが導入されています。AIはヒトで起こりうる同調圧力やヒエラルキーの問題を抱えずして迅速かつ正確な判断を下すことが可能です。しかし、AIのDeep Learningは性能が高い一方で推定根拠が分からないというブラックボックス性の問題があることもご教示いただきました。ただし、眼内レンズ度数といった離散値識別においてはブラックボックス性の問題を抱えることなく100%の正解を導くことが可能であり、AI認証は非常に有用であるとのことで、現場に広く活用されることが期待されます。実際にツカザキ病院眼科で運用されているシステムでも高い正答率が示された一方で、術者が非協力的であったために正答率低下につながったとの例も示され、「ヒト」の問題は簡単には排除できないことを認識しました。
そして、個人情報保護が課題である昨今、データを集約化せずに蓄積してAIを作る分散協調学習の取り組みについてもお話しいただきました。この方法では、ヒトが計測したデータではなくOCTによる解析データを基にするなど、ヒトによるバイアスが入らないデータ集めが重要であるとのことでした。協調機械学習を応用して実際に作成された眼内レンズ計算式では、等価球面度数の平均絶対値誤差が減少したという報告も示されました。
最後に、医師、看護師、視能訓練士、薬剤師、事務職といった職種間の知識や地位のボーダーは集約化の鬼門ですが、これらにとらわれないコミュニケーションが成果の源であるとお話しいただきました。
今回の特別講演では、医療における集約化、AIの必要性や、実際に現場に導入されているシステム、今後の発展性について学ぶことができました。意思決定行動の際には、自身がバイアスを持つことを自覚することや、客観的なデータを根拠にした行動や意識変容の重要性を認識しながら、日々の診療に活かしていきたいと感じました。今後、身近な現場でもAIシステムが導入されることを期待したいと思います。
田淵仁志先生、この度は貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

太田 真実

2022年1月15日に第36回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。山口県内における新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、オンラインでの開催となりました。特別講演2では大阪医科薬科大学眼科学教室教授の喜田照代先生に「網膜静脈閉塞症の歴史と現在の治療・研究update」と題してご講演いただきました。
まず初めに網膜静脈閉塞症(RVO)の歴史についてお話しいただきました。RVOの歴史は古く、1850年に眼底鏡が発明されたのを皮切りに1854年には網膜中心静脈閉塞症が、1855年には網膜静脈分枝閉塞症が報告されていたことには驚きました。1900年前後には血栓形成の関与や動静脈交叉部に発症することが報告され、近年では光干渉断層計(OCT)やOCTアンギオグラフィーの登場により更なる研究が進んでいます。私が研修医の時には、硬化した動脈に圧迫されることで静脈閉塞を引き起こすと学びましたが、画像検査の発達により実はRVO症例の約半数がvenous overcrossingであること、動脈との交叉部以外でも静脈狭窄が起こること、静脈自体がvasoactivityを有すること等、この数年間でも新しい知見が生み出されていることが分かりました。
続いてRVOの発症メカニズムについて喜田先生のご研究されている内容をお話しいただきました。血管収縮因子エンドセリン1(ET-1)が血管内皮増殖因子(VEGF)や低酸素誘導因子であるHIF-1αと互いに関与していることを基礎研究の結果からお話しされ、臨床研究においてもRVO患者の抗VEGF療法後には血中ET-1濃度が低下することを示されました。また、網膜静脈圧(RVP)もRVOの発症機序を理解し、治療を行う上では重要であることが分かりました。RVO患者ではRVPが高く、抗VEGF療法によりRVPは下降し、黄斑浮腫の改善も得られるというデータは大変興味深い内容でした。
最後にRVOの治療についてのお話をいただきました。現在、RVOに対しては抗VEGF療法が第一選択ですが、これは黄斑浮腫に対して早期治療介入を行い、視力改善を得ることやRVPを下げることを目的としています。しかしRVO治療においては慢性化を防ぐことも重要であり、毛細血管瘤や硬性白斑の集積を予防する意味ではレーザー治療も未だ重要な位置づけの治療と言えます。また、RVOは高血圧や脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群など全身疾患の影響も大きいことから、初期の段階で全身管理の必要性を患者さんに説明することも私たち眼科医の重要な仕事です。
今回ご講演いただきました内容を念頭に置きながら明日からのRVO診療に臨みたいと思います。オンラインでの開催となり、喜田先生のご講演を直接拝聴することができないのは残念でしたが、非常に学びの多い時間となりました。この度は大変貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。

2021年

第35回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2021年07月18日(日)10:00~12:00
詳細
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特別講演1

「眼感染症の過去 現在 未来」
松本眼科 加治 優一 先生

特別講演2

「2021硝子体手術」
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室 教授 北岡 隆 先生

第34回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2021年01月16日(土)17:00~19:00
場所
翠山荘 2F「カトレア」
詳細
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特別講演1

「AI時代の緑内障診断」
大阪大学医学部寄付講座 准教授 三木 篤也 先生

特別講演2

「瞬目による摩擦を考える-関連疾患とその病態」
愛媛大学医学部眼科学教室 教授 白石 敦 先生

特別講演印象記 ①

青木 連

第34回やまぐち眼科フォーラムが、令和3年1月16日に山口市の翠山荘で開催されました。特別講演1は、大阪大学医学部寄付講座准教授の三木篤也先生に、「AI時代の緑内障診断」と題してオンラインにてご講演いただきました。
大きく分けて、①OCTによる緑内障診断、②OCT時代の緑内障とオミデネパグ、③AI時代の緑内障診断、といった三つのテーマでお話しいただきました。
まず始めに、OCTを用いた一般的な緑内障診断についてご教示いただきました。眼底写真による緑内障の定性的な構造的特徴をヒントに、OCTを用いて構造的視神経障害を定量的に評価することで緑内障診断が行われること、加えて眼底写真では異常を認めない症例においても、OCTを用いて乳頭周囲網膜神経線維(circumpapillary retinal nerve fiber layer; cpRNFL)や神経節細胞複合体(ganglion cell complex; GCC)を解析することで、極早期の緑内障性視神経障害を検出し、緑内障や前視野緑内障を診断することができることを、実際の症例を呈示いたたきながら、わかりやすくご説明いただきました。また、OCTを用いて緑内障診断を行う際の注意点やOCTの欠点についてもお話いただきました。正常眼と早期緑内障および前視野緑内障のGCC厚分布は重なりが大きいという正常眼データベースをお示しいただき、緑内障診断においてGCC解析のカラーマップのみに注目するのではなく、RNFL菲薄化のパターンを読むこと、眼底所見や視野検査結果と照らし合わせることが重要であるということを学ばせていただきました。OCTの欠点としては、末期緑内障の診断は苦手であること、個人差が大きいこと、アーチファクトの影響を受けやすいとのことで、なかでもOCTにおける視神経乳頭の検出不良は49眼/225眼と20%以上もあるという報告があり、非常に多いことが印象的でした。
次に、OCTを用いることで極早期の緑内障診断が可能になってきているにあたり、新たな薬物治療の選択肢として注目されているオミデネパグについてお話いただきました。オミデネパグは、これまで第一選択とされてきたラタノプロストに非劣勢の眼圧下降効果を有し、上眼瞼溝深化(deepening of upper eyelid sulcus; DUSE)をはじめとしたプロスタグランジン製剤特有の副作用が少ない点眼薬であり、早期診断・早期治療介入が重要である緑内障治療の選択肢として有用であると感じました。
続いて、AIを用いた緑内障診断の進歩についてお話いただきました。近年スウェプトソースOCTの発達により、OCTにおける篩状板の解析が進んでおり、篩状板の厚みが緑内障眼において視野障害と相関があることが報告されているとのことでした。そして、AI学習の蓄積により、これまでのOCTでは困難であった篩状板の鮮明な画像検出や篩状板の自動セグメンテーション技術および3D検出技術が大阪大学とTopcon社の共同開発にて進行中であるという、大変興味深い内容話題をお示しいただきました。
今回のご講演では、OCTによる緑内障診断のポイントをはじめ、治療の新たな選択肢やAI技術を用いた緑内障診断の今後の発展の可能性について最新の知見をお聞きすることができました。今回のやまぐち眼科フォーラムはコロナウイルス感染拡大の影響でオンラインでの開催となり、三木先生のご講演を直接ご拝聴することができず非常に残念ではありましたが、大変学びが多く、あっという間の一時間でした。三木先生、改めて大変貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。

特別講演印象記 ②

宮嵜 智景

第34回やまぐち眼科フォーラムでは、愛媛大学医学部眼科学教室教授の白石敦先生にオンラインにて「瞬目による摩擦を考える-関連疾患とその病態」と題してご講演いただきました。
まず1日に12000~15000回行われているとされる瞬目とその瞬目時の摩擦力についてご教示いただきました。摩擦は眼瞼結膜と眼表面で生じており、瞬目時の摩擦力は今回の講演のポイントである“眼瞼圧”を含む眼瞼側の要因、上皮障害やCL使用、結膜弛緩症等の眼表面側の要因、または涙液要因といった3要素が関与しているとのことでした。
次に、その瞬目に伴う摩擦が原因で発症する症候群、BAD(Blink Associated Disease)についてご教示いただきました。BADはLid Wiper Epitheliopathy、上輪部角結膜炎(Superior Limbic Keratoconjunctivitis : SLK)、下輪部角結膜炎(Inferior Limbic Keratoconjunctivitis : ILK)が含まれます。先生が経験され、実際に眼瞼圧を測定された症例をもとに、BAD罹患者は健常者と比較して眼瞼圧が高いことを示していただきました。治療は人工涙液やヒアルロン酸点眼による涙液の補充、軟膏やレバピミド、ジクアホソルNa点眼による涙液質の改善、眼瞼痙攣のある患者に対しては瞬目による摩擦力軽減につながるボトックス注射が有効であるとのことでした。また、角結膜上皮障害のパターンの分析結果では、上方結膜弛緩症は上方結膜上皮障害、涙液減少は瞼裂間角結膜上皮障害、下眼瞼圧の上昇は下方角結膜上皮障害と関連があるとのことで、上皮障害を診察した際に原因の推察が可能であることをご教示いただきました。
なかなか症状緩和に至らない上皮障害で困っている患者さんに外来で多く遭遇します。今回の講演を通して学んだこと、瞬目と摩擦力、眼瞼圧に注目して、今後の診療を行ってまいりたいと思います。また、眼瞼圧測定器は点眼麻酔を用いて簡便に測定することが可能であるとのことでした。今後、眼瞼圧測定器が発展し、BADの早期評価に繋がることを期待したいと思います。御講演いただきました白石先生、この度は誠にありがとうございました。

2020年

第33回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2020年01月18日(土)17:30~19:30
場所
山口グランドホテル3階「末広」
詳細
PDFはこちら
特別講演1

『複視の対処方−上下・回旋斜視を中心に』
兵庫医科大学眼科学講座 准教授 木村 亜紀子 先生

特別講演2

『眼科における治療薬の新しい時代:生物学製剤や他の新薬』
杏林大学医学部眼科学 教授 岡田 アナベル あやめ 先生

特別講演印象記 ①

冨永 和花

令和2年1月18日、山口グランドホテルにおいて第33回やまぐち眼科フォーラムが開催されました。特別講演として、兵庫医科大学の木村亜紀子先生に『複視の対処方-上下・回旋斜視を中心に』というテーマでご講演いただきました。講演では、上下回旋斜視をきたす疾患について、①滑車神経麻痺、②甲状腺眼症、③重症筋無力症の順にお話しいただきました。複視を発症した場合、正面視・読書眼位の改善、頭位異常の改善、整容面の改善を治療目標としてQOVの改善を図ります。疾患の基礎知識から、先生がご経験された症例ベースでの診断法とそのコツ、保存的治療・手術治療まで、検査所見や手術動画とともにお話しがあり、大変興味深く拝聴させていただきました。

はじめに、滑車神経麻痺には、主として、先天性滑車神経麻痺、代償不全型上斜筋麻痺、後天性滑車神経麻痺の3つがあります。先天性滑車神経麻痺は、頭位異常を契機として受診に至る例が多いですが、複視の訴えは認めません。一方で、代償不全型上斜筋麻痺と後天性滑車神経麻痺は、複視を自覚するという違いがあります。また、先天性滑車神経麻痺と代償不全型上斜筋麻痺は同じ病態であり、後天性滑車神経麻痺はそれらとは別の病態となります。先天性滑車神経麻痺は、複視の訴えがないにも関わらず頭位異常が目立つという特徴があります。治療介入をせず経過観察していると、成人になってから代償不全型上斜筋麻痺に移行することがあるため、就学前後、学童期までに手術加療を行うことが望まれます。一方、後天性滑車神経麻痺は、約80%が自然軽快する疾患であり、治療の第一選択は経過観察となりますが、自然軽快するまでの対応として、プリズム、フレネル膜プリズム、バンガーターフィルター等で複視の自覚症状を軽減する治療方法が示されました。また、両滑車神経麻痺は、強い回旋複視の訴えがありますが、Hess赤緑試験はほぼ正常であり通常の眼位検査では検出が困難な疾患であるとのことでした。回旋複視の検出に有用な検査としてDouble maddox rodが挙げられますが、眼底写真での視神経乳頭と黄斑との位置関係で回旋復視を捉える方法もお示し頂きました。また、白内障術後に複視を発症した症例では、加齢性変化が外眼筋に生じることで微小な内・上下斜視が生じるSagging eye syndromeを考慮する必要があることをお示しいただきました。

次に、甲状腺眼症は、外傷歴や手術歴がなく、朝方に増悪する上下斜視を認める場合に疑います。発症は甲状腺の自己抗体と関連を示し、男性の方がより重症化しやすいという特徴があります。喫煙が重症化のリスクファクターとなるため、甲状腺眼症と診断した際には禁煙指導が必須です。また甲状腺眼症に対する斜視手術は治療方法の主流ですが、斜視角が小さい症例や、全身状態によって手術困難な症例ではボツリヌス注射も有効とのことでした。  最後に、疾患重症筋無力症は、外傷歴や手術歴がなく、夕方に増悪する上下斜視を認める場合に疑います。診断法としてはテンシロンテストが有名ですが、眼科の臨床現場で比較的簡便に行える方法として、上方注視負荷試験やアイスパック試験が有用であり、実際の方法についても解説して頂きました。

今回の講演では、上下・回旋斜視について実際の臨床に則した診察や診断のコツ、治療選択等を、具体的な症例を挙げてわかりやすくご講演いただきました。外観上斜視が目立たないものの強い復視の訴えがある際には、上下・回旋斜視を疑うことが重要であり、今回ご講演いただいた内容を今後の診療に活かし実践していきたいと思います。このたびは貴重なご講演をありがとうございました。

特別講演印象記 ②

緒方 惟彦

第33回やまぐち眼科フォーラムが、令和2年1月18日に山口グランドホテルで開催されました。特別講演②は、杏林大学医学部眼科学講座の岡田アナベルあやめ先生に、「眼科における治療薬の新しい時代:生物学製剤や他の新薬」というテーマで御講演いただきました。

初めに加齢黄斑変性に対する治療法の変遷について、歴史を振り返りながら解説していただきました。初期はレーザー治療が行われており、次いでPDTが行われ、マクジェン®を初めとした抗VEGF製剤による治療の流れを示していただきました。その中で驚いた点は、本邦で認可されていないアバスチン®が世界では浸出型AMDの約半数に使用されているという点でした。

一方、最新の抗VEGF製剤には投与後3ヵ月間にわたり視機能が維持できる効果の長い製剤が開発されており、現在も治験中とのことです。投与間隔の延長が図られるため、実際に導入されれば患者の負担軽減が期待できます。VEGF以外のAMD増悪因子を標的とした治療製剤の研究も行われていますが、治験段階で研究が中断される製剤が多く、創薬が進んでいないようでした。

次にぶどう膜炎に対する最新の治療法についての話題でした。ベーチェット病では、早期より抗TNFα製剤レミケード®を導入した方が視力予後は良いことが分かってきており、海外では初めに抗TNFα製剤の導入から治療が開始され、効果がなければ、抗IL-6抗体製剤や抗CD20抗体製剤、抗CD80/86抗体製剤が使用されているようです。

本邦で非感染性ぶどう膜炎の治療に導入されているもう一つの抗TNFα製剤、ヒュミラ®に関しては、その有効性のみならず副作用についても言及されていました。重篤な副作用として、腫瘍や、結核等の感染症が報告されており、特に腫瘍に関しては、小児のぶどう膜炎に対して抗TNFα製剤を使用する場合、長期に使用する可能性があるため、発症に十分な注意が必要であるとのことでした。

今回のようなMedical retinaとぶどう膜炎の治療薬の過去から現在までの流れと、新たな知見を横断的にレビューしていただける機会は貴重であり、大変勉強になりました。この度は御講演いただき、誠にありがとうございました。

2019年

第32回 やまぐち眼科フォーラム

日時
2019年08月03日(土)18:00~20:00
場所
翠山荘
特別講演1

『糖尿病網膜症治療に残る課題』
三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座 講師 杉本 昌彦 先生

特別講演2

『角膜疾患の意外な犯人:隠れた微生物を探せ!』
鳥取大学医学部視角病態学分野 教授 井上 幸次 先生

特別講演印象記 ①

緒方 惟彦

第32回やまぐち眼科フォーラムが、令和元年8月3日に翠山荘で開催されました。特別講演1は、三重大学講師の杉本昌彦先生に、「糖尿病網膜症治療に残る課題」というテーマで、①糖尿病黄斑部浮腫に対する治療法、②血管新生緑内障、③全身疾患と糖尿病網膜症について御講演いただきました。

本邦の全国調査で、糖尿病黄斑部浮腫に対する治療は、抗VEGF薬硝子体内注射が最も多く、続いてSTTAやIVTA、網膜光凝固術、硝子体手術等となっているようです。抗VEGF薬硝子体内注射に併用される治療としては、網膜光凝固術やSTTAが多いようです。網膜光凝固術を併用する例としては、抗VEGF薬硝子体内注射後に黄斑部浮腫に関与するMAが残存した場合です。黄斑部浮腫に対するステロイド投与に関しては、トリアムシノロンは粒子のサイズが大きく注射針が詰まる原因となったり、粒子が鋭く投与の際に組織障害を起したりする可能性があるため、注射器2つを三方活栓で繋いで交互に溶液を混合させ融解することで粒子を細かくする方法やSTTAおよびIVTAを行う際の注射針の選択方法等を御教授いただき、大変参考になりました。黄斑部浮腫に対する硝子体手術は、術後のIVTAを行う時期による網膜厚の改善度に差はありませんが、術後4か月以内にIVTAを行った症例で視力成績が良かったというデータを御提示していただきました。術中にIVTAの併用を考慮してもよいかもしれません。

血管新生緑内障については、前眼部OCT-angioで撮影した、虹彩表面の新生血管の画像と評価方法を御提示いただき、大変興味深かったです。

全身疾患と糖尿病網膜症については、妊娠と糖尿病網膜症に焦点を当て、お話していただきました。妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠では、前者で糖尿病網膜症の発症は見られませんが、後者で糖尿病網膜症がある場合は悪化しやすいとのことでした。悪化の原因は、VEGFではなく、炎症性サイトカインが関与している可能性が高いことのことでした。糖尿病合併妊娠患者で糖尿病黄斑部浮腫が生じた場合は、STTAやIVTAを考慮してもよいかもしれません。

以上、大変興味深く、これからの診療に役立つ内容ばかりでした。この度は御講演いただき誠にありがとうございました。

杉本昌彦先生

特別講演印象記 ②

砂田 潤希

山口眼科フォーラムで鳥取大学医学部眼科学教授の井上幸次先生に「角膜疾患の意外な犯人:隠れた微生物を探せ!」というテーマでご講演頂きました。 一癖も二癖もある7つの症例について、先生が診断に至るまでのプロセスを丁寧に分かりやすく教えて頂きました。全ての症例が印象的でしたが、とくに印象に残った2つの症例について紹介します。 <Infectious Crystalline Keratopathy> 58歳女性で片眼の上皮混濁があり、表層切除術を施行するも再発を繰り返す症例でした。切除病変からカンジダが検出され、フルコナゾールによる治療で軽快しました。Infectious Crystalline Keratopathyは炎症所見が乏しく、結晶化をきたす角膜疾患であり、原因としてカンジダや肺炎球菌等の感染が挙げられます。常に感染症を疑い診察するべきだと学びました。 <バイオフィルムによる菌石形成> 74歳女性で片眼の翼状片術後で壊死性強膜炎となり、保存角膜による移植を施行されました。その後、強膜炎の再発に対し羊膜移植を施行され、術後同部位に角砂糖様の固形物を認めました。除去された物質から、細菌検査でG+桿菌が検出され、コリネバクテリウムによる菌石と診断されました。これは細菌が縫合糸やSCLなどのバイオマテリアルを足場にバイオフィルムを形成し菌石となったものでした。起炎菌として、黄色ブドウ球菌、アクネ菌、コリネバクテリウムが挙げられ%B