第76回山口眼科手術懇話会プログラム
- 日時
- 2023年11月11日(土)17:00~20:00
- 場所
- 山口大学医学部 霜仁会館3階
- 一般口演
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17:00~18:30
座長:太田 真実(山口大学)
- 「角膜、水晶体の糖尿病眼合併症に対する手術について」
柳井 亮二、岩本 菜奈子、永井 智彦、山田 直之、木村 和博(山口大学) - 「急性網膜壊死に伴う網膜剥離に対して初回から輪状締結術を併用した硝子体手術の一例」
有吉 伸顕1,2、柳井 亮二2、新川 邦圭1、芳野 秀晃1
(1.徳山中央病院 2.山口大学) - 「Myopic traction maculopathyの硝子体手術前検査における前眼部OCTの有用性」
宮城 秀考、石田 康仁、廣田 篤 (広田眼科)
座長:榎 美穂(小郡第一総合病院)
- 「涙道感染に合併した角膜穿孔眼に対して角膜・涙道同時手術を施行した一例」
佐久間 彩乃1、岩本 菜奈子1、三國 雅倫1、中村 陸1,2、濱田 和花1、永井 智彦1、山田 直之1、木村 和博1(1.山口大学 2.九州大学) - 「マイボーム腺嚢胞の1例」
砂田 潤希1、舩津 法彦1,2、竹中 優嘉1、芳川 里奈1、内 翔平1、寺西 慎一郎1、木村 和博1
(1.山口大学 2.山口県立総合医療センター) - 「プレート型眼内レンズを合併症により摘出した2症例」
徳田 あゆみ1、近藤 由樹子1、木村 和博2
(1.宇部興産中央病院 2.山口大学)
- 「角膜、水晶体の糖尿病眼合併症に対する手術について」
- 特別講演
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18:30~20:00
座長:木村 和博(山口大学)
『逆さ睫毛の治療戦略』
三戸 秀哲 先生 慈心会 井出眼科病院 医局長
舩津法彦(山口県立総合医療センター)
令和5年11月11日土曜日に、第76回山口眼科手術懇話会が山口大学医学部霜仁会館3階にて開催されました。特別講演では、慈心会井出眼科病院医局長の三戸秀哲先生より『逆さ睫毛の治療戦略』についてご講演していただきました。
本講演で学んだことをまとめさせていただきました。
逆さ睫毛の原因には、内反症と睫毛乱生があります。
姑息的治療は睫毛抜去ですが、すぐに再発します。そのため根治的治療としては、正しく睫毛を外反させるか、毛根を完全に切除することになります。睫毛電気分解は毛根を破壊し、睫毛を永久的に生えなくする方法ですが、毛根焼灼の不確実性や睫毛にも休止期があるため、1回の施術で完全に終了せず、何回か繰り返して行う必要があります。時に睫毛乱生の原因にもなります。
内反症には、睫毛内反症(≒先天内反)と眼瞼内反症(≒退行性内反)があります。
睫毛内反症の原因は前葉で、眼瞼内反症の原因は後葉で瞼板が回旋しているためです。
上記の2つの状態を合併することもあります。
睫毛内反症は、若年に多く、L E R(lower eyelid retractors)皮膚穿通枝の先天的脆弱があり、後葉と比較して前葉が相対的余剰となり、皮膚に押されて睫毛が内反し、角膜上皮障害を生じます。手術法にHotz変法があり、睫毛下の真皮を瞼板下縁に固定します。
退行性下眼瞼内反症は、50歳以上で特に高齢者に多く、加齢による垂直方向(=L E R)の弛緩+水平方向(=皮膚、眼輪筋、内眥靱帯、外眥靱帯)の弛緩があり、眼瞼が回旋することで発症します。診断のポイントとして下眼瞼を引くと一時的に内反は改善しますが、瞬目で内反が再発する点があります。手術法にJones法があり、下眼瞼の睫毛下を約3〜4mm切開し、L E Rを瞼板下縁から剥離した後、L E Rを短縮し瞼板に固定します。また、L E Rの前層と後層を前転するJones法の柿崎変法があり、水平方向の弛緩のない下眼瞼内反症に適応とされます。L T S(Lateral tarsal strip)法は、瞼板の外眥部を切断しlateral canthal bandの下脚を切断し、下瞼板外側を自由にして瞼板外側の上皮性成分を除去して眼窩縁後方の骨膜に固定し水平方向の弛緩を改善する方法で、lateral canthal bandの弛緩があり、Pinch testで8mm以上の症例に適応とされます。
睫毛乱生は、眼瞼の回旋や余剰皮膚による睫毛偏位もなく、睫毛の向きが眼球方向に向かっているために眼表面と接触している状態です。睫毛乱生の一種として、Marginal entropion(瞼縁後端部のわずかな内反)があり、瞼縁の炎症が遷延化することで睫毛乱生が生じます。その他にトラコーマ、眼瞼手術後、Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡などの瘢痕によるものがあります。治療として、睫毛抜去、電気分解、冷凍凝固法等があります。手術法としては睫毛の外反を補助するLid margin split法が有効とされ、また上眼瞼の睫毛乱生には、Wojno法が有効とされます。
内反症と睫毛乱生において、解剖学的異常と病態を見極めそれに即した手術法を選択することが重要であるとご教授していただきました。
その他の特殊な睫毛異常として、睫毛重生があり、先天性睫毛重生や慢性リンパ水腫が原因とされ、全身精査が必要とされます。
今回のご講演では、逆さ睫毛の治療戦略のタイトルの名の通り、沢山の症例を手術動画を交えながらご提示していただき、非常に学びが多い時間でした。今回の特別講演で学んだことを、今後の診療に活かしていこうと思います。三戸先生、この度は貴重なご講演をいただき誠にありがとうございました。