眼科とは
「見える」ということを意識したことはありますか?
「目が悪いから、眼鏡かけないと見えないんだよね。」とか、「コンタクトにしてからいろいろ面倒で…」とか、見えるということを身近に感じている人は多いと思います。
「見える」、そんな当たり前のようなことが、何らかの病気で失われることがあったら…あなたはそんなことを想像したことがありますか?
現実には、眼疾患のために視機能(明瞭に見えること、広い範囲が見えることなど)が障害され、日常生活に不便を感じている人がいます。
人間が外界から受け取っている情報のうち、80%は視覚情報といわれています。すなわち、人間の感覚のうちの80%は眼球を介して得ていることになります。
したがって、眼疾患を患っている患者さんは、情報や行動が制限され、質の高い生活を送ることができない状態にあります。
私たち「山口大学 眼科」は、このような眼疾患を有する患者さんの治療を行うことにより、より多くの人の良好な視機能を維持し、より幸せな生活を送っていただけるよう、高い志を持って日々の診療や研究に励んでいます。
眼疾患といっても、非常に多くの疾患があります。ご存知のように、眼球は長軸が24mm程度の小さな臓器です。
しかし、その小さな臓器の中は、非常に精密で複雑な構造をとっています。その複雑さ・精密さから小さな臓器であるにもかかわらず一つの学問を形成するまでになっているのです。
眼科が扱う疾患の中で、頻度的に最も多いのは加齢に伴って生じる白内障でしょう。長年にわたる眼科医の努力と近年のテクノロジーの発達により、白内障は治療可能な疾患になってきました。
一方では、緑内障や加齢黄斑変性症などの難知性・治療抵抗性の疾患も近年増加の一途をたどっており、患者さんの視機能維持に懸命に取り組まなければなりません。
適切に治療しなければ重篤な後遺症を残したり不可逆性の視機能障害を残したりする角膜感染症や網膜剥離など、緊急性の高い疾患もあります。
また、近年の生活環境変化により増加しているドライアイやアレルギー性結膜炎なども対象となる患者さんの多い疾患です。
では、眼科医である我々は、実際どのように眼疾患を治療しているのでしょうか?
眼科は、”外科系”に分類される診療科/研究科です。
私たちは点眼薬を中心とした内科的治療だけでなく、眼科手術という方法を用いて外科的治療も行う診療科です。
眼疾患に関しては、診断から治療まで、自分達で完結できる診療科です。
私達が使うことのできる眼科検査機器は非常に多く、これらの検査機器を駆使して診断を行います。その診断に基づき薬物療法を行い、薬物療法の限界に来れば手術療法という方法をとることができます。
そして、それらの治療効果も、自分達で検査機器を駆使して評価していくのです。
自己完結型診療とも言える眼科のスタイルは、患者さんの視機能障害に関しては絶対の責任を持つ、という高い志をわれわれに植え付けてくれているといえるでしょう。
先輩医師からのメッセージ
眼科って、すごい!
小郡第一病院 眼科部長 榎 美穂
卒後24年になります。卒業後すぐに山大眼科に入局、2年間のオーストラリア留学をはさんで平成10年まで大学で勤務、平成11年から現在のJA山口厚生連 小郡第一総合病院で眼科部長をしています。
この間ずっと眼科勤務医をやっており、仕事をやめようと思ったことはありません。単に家庭での得意分野がなかったということと、仕事を続けるのが当たり前という意識がなんとなくあっただけで、一生懸命頑張ってきたというほどのものでもなく、それほど強い覚悟があったわけでもなく、気が付いたら24年たっていたというのが本当のところです。
ただ、いまだに眼科医の仕事が楽しいと感じていますし、毎朝元気に仕事に向かえるのは幸せなことです。
私が楽しく仕事が続けられている要因の中には、眼科という科の特性と現在勤めている病院の規模や雰囲気というようなものがあると思っています。
眼科のいいところはまず患者さんのQOLに深くかかわることができるというところです。感覚器の特徴で患者さんにとても喜んでもらえる、それが自分の張り合いになります。
また自分で計画して仕事量が決められる、オンとオフとがはっきりしておりメリハリがつけられると思います。
また自分一人で出来ることも多いので、特定の分野を自分のペースに合わせて勉強したり、新しい手術などを習得したりして自分が進化し続けられるということもモチベーションの維持につながっています。
私にとってぴったりだった眼科ですが、やっぱりこの学問の奥深さに、日々勉強の毎日です。こんな”すごい”眼科で、皆さんも働いてみませんか?
山口大学眼科はこんなに元気な教室です!
山口大学眼科では、山口県のみならず近隣の県から受診される患者さんの治療にあたりながら、研究室ではこれまでわかっていない病気の仕組みの解明に取り組んだり、治せなかった病気に対する新しい治療法の開発を行ったりしています。
眼科治療の大きな部分を示すのは、やはり手術です。
眼科で行う手術のほとんどは顕微鏡下で行うマイクロサージェリーです。近年のテクノロジーの進歩により、網膜疾患の治療の多くが硝子体手術という方法で治療できるようになりました。また、近年患者数の増加が顕著な緑内障に対しても、内科治療だけでなく外科的治療も行っています。
角膜疾患に対する治療は、角膜移植をはじめ西日本でも有数の症例数を誇っています。
大学病院では常に最新の医療機器・手術機器が導入されますので、最先端の治療をいち早く実践できることも大きな特徴です。これらの充実した手術環境は最近の手術症例数の伸びにも表れており、平成23年には年間で1300件以上の手術を行いました。
山口大学医学部附属病院で行われている手術の5分の1が眼科手術であることも、眼科手術が治療の大きな武器となっていることを示しています。
眼科入局者の中には、「手術がしたい!」と希望して入局する人がとても多いですが、私たちの教室では、入局者のニーズに合わせて、十分な手術教育や充実したトレーニング行えるだけのスタッフと症例数を誇っていると言えるでしょう。
山口大学では、伝統的に角膜の研究がおこなわれてきました。様々な原因で角膜の表面の傷が治らない病気”遷延性角膜上皮欠損”の治療にフォーカスを当て、研究がされてきました。
FGLM-NH2とSSSRという合成ペプチドを同時投与すると、数カ月治らなかった角膜の傷が2週間から4週間で治癒させることに成功しました。
これらの治療経験は外国雑誌に紹介され、現在では、”山口大学発の薬剤”が日本全国で臨床治験を行われるまでに至っています。
また角膜の研究に加えて眼炎症や網膜疾患の研究も始まっています。眼組織に発生し種々の問題となる瘢痕病変にも着目し、研究が進んでいます。
緑内障手術における結膜下組織の瘢痕形成は手術成績に大きく影響しますし、近年増加の一途をたどっている加齢性黄班変性症は黄班下に瘢痕組織が形成されていることが知られています。
また、角膜に瘢痕が形成されると角膜の透明性が失われ、視力低下の原因となります。
この“瘢痕”の発生のメカニズムを解明しその制御を行うことで、様々な疾患の病態解明や病状進行の仕組みを明らかにし、実際の臨床の場でどのように応用可能かどうか模索しています。
さらには、網膜の再生医療の開発・実用化に向けた研究もスタートし、順調な成果をあげています。
FGLM-NH2+SSSR点眼治療。2週間以上続いた遷延性角膜上皮欠損が1日で縮小し、 8日で完全に消失した(Yamada N, et al. BJO 2008より転載)。