リンパ腫をはじめとするリンパ増殖性腫瘍は遺伝子解析技術の進歩により、遺伝子変異に基づく診断・分類法が急速に拡大しています。我々は当院の血液内科、病理診断科、遺伝子検査室、血液検査室との協力のもとに特異的な遺伝子変異診断法の開発を進めています。また東洋鋼鈑株式会社との共同研究により新規診断法も開発しています。
活動報告
骨髄異形成症候群(MDS)の遺伝子解析
骨髄異形成症候群(MDS)は血球減少と無効造血を特徴とする高齢者に多い疾患です。造血細胞に多くの体細胞遺伝子変異が認められます。環状鉄芽球と呼ばれる特徴的な表現形質を持つMDSには高頻度にSF3B1遺伝子変異が認められます。この遺伝子変異はWHO分類でも診断基準の一つとなっていますが、外注検査として受けてくれるメーカーはありませんでした。この度、東洋鋼鈑との共同研究にてSF3B1遺伝子変異解析できるMDSチップを作成し、BML社にて検査ができるようになりました。
造血器悪性腫瘍のシグナル伝達経路の研究
細胞内シグナル伝達経路のkey playerであるMAPKカスケードの上流因子MEK kinase 1(MEKK1)の機能解析を行ってきました。(Yujiri T. et al. Science 1998, Yujiri T. et al. JBC 1999, Yujiri T. et al. PNAS 2000, Yujiri T. et al. JBC 2003) 慢性骨髄性白血病や一部の急性白血病に認められる染色体転座によって生じるBcr-Abl融合遺伝子のシグナル伝達機構にこのMEKK1が関与することを発見し、その機能について解明しました。(Nawata R. et al. Oncogene 2003, Nakamura Y. et al. Oncogene 2005)近年、注目されている小胞体ストレスシグナル経路がBcr-Abl陽性白血病や患者検体でも活性化されていることを報告しました。(Tanimura A. et al. Leukemia Res2009, Int J Hematol 2011)
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のピロリ除菌療法の研究
ITPに対するピロリ除菌療法の有用性は広く知られていますが、そのメカニズムは明らかではありません。我々は患者検体を用いた解析から、ピロリ菌の蛋白(CagA)が分子学的相同性抗原としてその自己免疫機序に関与している可能性を明らかにしました。(Takahashi T. et al.Brit J Haematol2004, Takahashi T. et al. Blood 2004) さらにこの除菌療法の前後で血中B cell-activating factor (BAFF)値が変動していることを明らかにしました。(Yujiri T. et al. Brit J Haematol 2011)
造血幹細胞移植に関する研究
難治性造血器悪性疾患に対する治療法として造血幹細胞移植は確立されていますが、より安全にかつ有効な治療になるように研究を進めています。(Yujiri T. Int J Hematol 2004, Ando T. et al. Eur J Haematol 2005, Ando T. et al. Leukemia 2006, Nakamura Y. et al Brit J Haematol 2007, Nakamura Y. et al. Bone Marrow Transplant 2007, Yujiri T. et al. Eur J Haematol 2010, Mizuta S. et al. Leukemia 2011, Kanamori H. et al. Bone Marrow Transplant2013, Nakamura Y. et al.Int J Hematol. 2016, Itonaga H. et al. Leukemia Res 2016, Sakura T. et al. Leukemia 2018, Kawajiri-Manako C. et al. Biol Blood Marrow Transplant 2018, Nakamura Y. et al. Transplant Proceedings 2019, Kajimura Y. Ann Hematol. 2022)
G-CSF投与による末梢血幹細胞動員の研究
血液内科の臨床現場では末梢血幹細胞採取のため大量G-CSF投与による造血幹細胞動員が行われていますが、そのメカニズムについては不明な点が多く、安全に効率的な採取法が望まれています。そこで我々は様々な観点から末梢血造血幹細胞動員時の体内での変化を検討してきました。(Tagami K. et al. Brit J Haematol 2006, Yujiri T. et al. Leukemia Res 2008, Tanaka Y. et al. J Clin Apheresis2009, Tanaka M. et al. Bone Marrow Transplant 2012, Sugiyama A. et al. Chronobiol Int 2015, Ann Hematol 2016) さらに採取するタイミングをはかるマーカーを検討しました。(Mitani N. et al. J Clin Apheresis 2011)
骨髄増殖性腫瘍(MPN)の遺伝子解析
2005年にフィラデルフィア染色体陰性MPN患者にJAK2 V617F変異が同定され、この疾患の病態解明が急速に進みました。現在、MPL, CALR遺伝子変異もこの疾患のドライバー遺伝子として認識され最新のWHO分類でも診断基準の一つとなっています。現在、この疾患の遺伝子検査を多施設共同研究として勧めています。この疾患発症の特異的な遺伝子多型の解析を報告しました。(Tanaka M. et al. Int J Hematol2013, Matsuguma M. et al. Int J Hematol 2019)まれなMPN症例の報告もしました。(松隈ら 血液内科 2017) さらに東洋鋼鈑との共同研究により新規遺伝子診断法の開発を行っています。2020年2月14日より東洋鋼鈑との共同研究により開発したMPNチップがSRL社より受託開始されました。