研究テーマ

オーファン繊毛病の病因・病態解明

 体内の繊毛には、自律的に動く「運動性繊毛」と運動性のない「一次繊毛」があります。運動性繊毛は特定の臓器に発達して、局所的な水流を作って機能します。一方、一次繊毛は、ほぼ全ての臓器で見出され、繊毛膜には多くのチャネルや受容体が集まり、細胞のアンテナ「感覚器官」として機能します。

 繊毛に関連する遺伝子が生まれつき異常になっている場合、多発性嚢胞腎、網膜色素変性症や内臓逆位など、特徴的な病態を示します。このような病態を繊毛病(Ciliopathy)と呼びます。遺伝性の繊毛病は、200種類以上あると言われていますが、その半数以上は、原因遺伝子や発症機構が不明なままです。私たちは、これらの繊毛病を「オーファン(行き場のない)繊毛病」と位置づけ、病因・病態の解明を進めています。

血球系以外のほぼ全てのヒト細胞に発達する「一次繊毛」と関連疾患

コレステロール「欠乏」病としての繊毛病

 コレステロールが「過剰」になると、動脈硬化を引き起こすことから、世界中でコレステロール過剰症の研究が進められています。一方で、コレステロールの「欠乏」による病態は、不明な点が多いのが現状です。コレステロール生合成酵素の先天的欠損症・Smith-Lemli-Opitz症候群では、繊毛病症状を合併します。つまり、コレステロール「欠乏」病は繊毛病として現れることから、コレステロールは繊毛で何らかの生理的機能を発揮すると考えられます。私たちは、コレステロール「欠乏」性繊毛病のモデル細胞やマウスを用いて、基礎研究、創薬研究を行なっています。

繊毛膜にはコレステロールが濃縮しており、チャネルや受容体が集積している

細胞のコレステロール輸送・代謝機構

 コレステロールは、細胞外から供給されるほかに、小胞体で合成され、繊毛膜を含む細胞膜に速やかに輸送されます。私たちは、酸化オルガネラである「ペルオキシソーム」が繊毛膜にコレステロールを運ぶ新たな機能をもつことを明らかにしてきました。細胞内でのコレステロール輸送異常が、どのような病態を引き起こすか?を疾患モデルマウスを用いて解析しています。

 また、ヒトを含む真核細胞はコレステロールを分解できません。そこで、細胞はコレステロールを「排出」することで、細胞内のコレステロール量を保つと考えられています。コレステロールの「排出」機構には、ABCA1など一部のトランスポーターの存在が知られていますが、その多くは未解明です。私たちは、新たなコレステロール「排出」機構を見出しており、その関連疾患について、研究を推進しています。

コレステロールの輸送と代謝:ペルオキシソームは繊毛へコレステロールを供給する