公開日 2021年7月29日
山口大学共同獣医学部
山口大学共同獣医学部は、深い知識と高度な技術を備えた専門性の高い獣医師を養成することを教育目標としています。そして、ディプロマ・ポリシー(学生が卒業時に備えるべき能力)に、「豊かな人間性と獣医師としての正しい倫理観を持ち、行動規範に従い職務を遂行する能力」を掲げ、知識や技術のみならず、人として・獣医師としての倫理観を身につけることを最も重要な事項と捉え、6年間の教育を通じて培うことをめざしています。
このような考えのもとで、本学部では実習において動物実験代替法を積極的に導入し、生体動物を使わない実習を増やしてきました。具体的には、2017年にゼロ・プロジェクトを立ち上げ、多くの動物モデルを導入し利用することで、動物に苦痛を与える(侵襲性の高い)実習をゼロにする取組を実践しています。しかし、下記のような理由から、獣医学教育には生体動物を使った実習が求められます。
- 動物種に最適の保定法を学び、人と動物の双方とも安全かつ処置や治療に有効な取り扱い方法を、生きた動物の行動性を理解して習得しなければなりません。
- 教科書やシミュレーターなどで得た知識・技術を、実際の動物で実施することで、実技の習熟度を上げ、生体反応への対応力を獲得することが必要です。
- 体の構造や動物の行動等、代替法では確認できない範囲の知識を習得することが必要です。同様に代替法ではまだ実施が難しい生体反応の理解を深めなければなりません。
- 生体反応に対する鎮痛・麻酔技術、動物の不動化技術を学習し、家畜伝染病法への対応や終末期の動物への対応を学ぶことが必要です。
このように、一部の実習では生体動物の利用を避けることができませんが、生体動物の利用には、大学への動物実験計画の提出を義務づけ、必要性、代替法の有無、使用数、苦痛度の妥当性と対策について審査しています。加えて学部においても、毎年、動物福祉に関する自主点検を行い、適切な取組を行っているか確認しています。将来的には、代替法に関する技術開発により生体動物を利用する範囲がさらに縮小されることが予測され、今後も積極的な代替法技術の取り込みを継続します。
また本学部は、鹿児島大学共同獣医学部と共に、2018年に大学基準協会による獣医学教育評価への適合を、2019年には欧州獣医学教育機関協会(EAEVE)による獣医学教育認証を取得しました。また、2018年には国際実験動物ケア評価認証協会(AAALAC International)の完全認証を取得しています。これらの認証においては、動物福祉への対応と教育の実践が重要とされており、第三者評価を積極的に受審することで、本学部の動物福祉に対する取組の質保証を行っています。
山口大学共同獣医学部は、今後も高い倫理観を持った獣医師を育成するために、国際水準の動物福祉の考えと手法を取り入れた獣医学教育を実践していきます。
公開日 2021年7月29日
山口大学共同獣医学部
山口大学共同獣医学部では、「山口大学共同獣医学部の生体動物の実習利用における方針」のもとで獣医学教育を実践しています。その根幹をなす3Rの原則※1と5つの自由※2については、以下の授業(すべて必修科目)で6年間を通じて繰り返し教育を行っています。
獣医学概論A(1年次、1単位)、生命倫理学(1年次、1単位)、獣医キャリア形成論(3年次、1単位)、実験動物学A(3年次、1単位)、実験動物学B(3年次、1単位)、実験動物機能学実習(3年次、1単位)獣医倫理学(4年次、1単位)、動物福祉学(4年次、1単位)、獣医法規(4年次、1単位)、伴侶動物総合臨床実習(5~6年次、11単位)、産業動物総合臨床実習(5~6年次、6単位)
※なお、動物を使用する全ての実習においてオリエンテーションの時間を設け、実習に動物を用いる理由や動物の福祉と倫理に関して説明しています。
※1 3Rの原則とは
1959年にRussellとBurch氏によって提唱された世界的な動物実験の基準理念です。
- Replacement(代替):「できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用すること」
- Reduction(削減):「できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること」
- Refinement(改善):「できる限り動物に苦痛を与えないこと」
※2 5つの自由(5 freedom、5F)とは
1960年代にイギリスで家畜に対する動物福祉の理念として提唱されました。その後、家畜のみならず、伴侶動物や実験動物等、人間の飼育下にある全ての動物の福祉の指標として国際的に認められています。
- 飢えと渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛み・傷害・病気からの自由
- 恐怖や苦悩からの自由
- 正常な行動を表現する自由